成長する歯科医院を襲う「嬉しい誤算」
新患が増え、キャンセルが減り、自費が伸び、メンテナンスの予約枠が埋まっていく。
数字がじわじわと積み上がり、月次の売上が前年を上回る月が続く。
先生の歯科医院で、こんな流れが生まれ始めた瞬間を想像してみてください。
院内の空気は明らかに変わります。
スタッフの表情が変わり、辞める人が減る。
産休や育休で一度離れた歯科衛生士が「戻りたいです」と連絡をくれる。
知り合いの歯科衛生士から「働けませんか」と相談が来る。
これは、優れた歯科医院に共通して起こる現象です。
増収増益がスタッフのモチベーションを上げ、定着率が上がり、
復帰希望者や助っ人候補のストックが自然と増えていく。
ところが、ここで多くの院長が予想もしなかった壁にぶつかります。
「戻ってきてほしいけれど、活躍してもらう”場”がない」
診療ユニットは常に埋まっている。
スタッフの導線もギリギリで回している。
最小人数で運営してきたスモールオフィスほど、この壁は早く訪れます。
嬉しい悲鳴のはずが、断腸の思いで「今は難しい」と伝える瞬間。
先生の歯科医院にも、その兆しはありませんか?
そして、多くの院長がこう考え始めます。
「これ以上の患者は受け入れられない」
「受信希望の患者がいるのにアポが入れられない」
「ユニットはほぼフル稼働。増やすしかないかぁ」
「拡張するしかないか」「分院を出すか」——と。
ですが、その判断、少し待ってください。
「ユニット不足」の一手目は?
「戻ってきたいスタッフに応えたい」
「新患をもっと受け入れたい」
「メンテナンス枠が足りない」
こうした課題に直面したとき、
多くの院長がまず思い浮かべる選択肢は、
だいたい3つに集約されます。
・拡張+ユニット追加
・分院展開
どれも「物理的な診療スペースを増やす」
というアプローチです。
一見、正攻法に見えます。
ですが、少し立ち止まって考えてみてください。
この3つには、共通する重い負担があります。
1つ目は、数百万円〜数千万円単位の投資。
借入も含めれば、回収期間は数年から十年規模になります。
2つ目は、工事期間中の売上ダウン。
休診や部分診療を余儀なくされ、
患者を一時的に手放すリスクも生じます。
(分院展開では休診せずに済むかも…)
3つ目は、オペレーションの全面再構築。
動線、スタッフ配置、予約枠の設計、器材の管理…
すべてを組み直す必要があります。
分院展開ともなれば、院長不在の時間帯を
どう回すかという問題が、ここに上乗せされます。
つまり、「ユニット不足」への回答として
拡張工事や分院を選ぶことは、
経営の重心を大きく動かす決断です。
資金も、時間も、精神的リソースも、
相当量を投入することになります。
ここで重要なのは、その決断の前に、
もっと軽くて速い選択肢を検討したかという点です。
「物理的にユニットが足りない」
——本当にそうでしょうか?
それとも、「今あるユニットの使い方」に
見直し余地があるのでしょうか?
この問いを一度くぐり抜けた後に
拡張の判断をするかどうかで、
次の3年の経営はまったく違う景色になります。
次章では、拡張や分院の前に
検討する価値のある2つの選択肢をご紹介します。
検討したい2つの選択肢
拡張工事や分院展開に踏み切る前に、
検討する価値のある選択肢が2つあります。
どちらも
「今の建物のまま、診療ユニット増に伍する効果と
スタッフのさらなる活躍の場を生み出す」
という発想です。
選択肢1|訪問診療で「外に出る」
1つ目は、訪問診療への展開です。
「診療の場を院内に増やす」のではなく、
「診療の場を外に持ち出す」という
発想の転換になります。
必要なものは、
ポータブルユニット一式と、
訪問診療特有の運用ノウハウ。
追加投資は、ユニット増設や
拡張工事と比べれば桁が違います。
大規模な工事が不要なため、
休診リスクもありません。
既存の院内オペレーションを
大きく崩さずに始められる点も、
大きな利点です。
そして何より、
復帰を望む歯科衛生士や歯科医師にとって、
活躍の”場”になり得ます。
院内チェアタイムの制約から解放され、
時間の使い方に柔軟性が生まれます。
育児中のスタッフが
働きやすいシフトも組みやすくなります。
ただし、成立の絶対条件が1つあります。
継続的に一定数の訪問患者を
確保できる見込みがあることです。
近隣の高齢者施設、居宅介護支援事業所、
地域包括支援センターなどとの連携ルートを持てるか。
ここが立ち上がれば、訪問診療は
増収と人材活用を同時に叶える一手になります。
見込みが立たないうちに設備だけ揃えると、
ポータブルユニットが眠り続ける結果になります。
まずは連携先の当てを1つ作ることから
始めるのが現実的です。
選択肢2|ユニットを「治療専用」に戻す
2つ目は、ユニットの使い方そのものを見直す
という選択肢です。
先生の歯科医院で、診療ユニットは
1日にどんな用途で使われているでしょうか。
治療、メンテナンス、そして——
治療計画の説明、自費のカウンセリング、
ブラッシング指導、次回予約の相談。
後半に挙げた業務、
実はユニットがなくても成立するものばかりです。
つまり、その時間、ユニットは
「単なる椅子」として機能しているだけなのです。
ここに大きな機会損失が潜んでいます。
発想はシンプルです。
ユニットを使わない業務のための専用スペースを、
院内の別場所に設けます。
カウンセリングブース、指導コーナー、相談室
——呼び方は問いません。
そこで完結可能な業務をユニットから引き剥がすのです。
結果としてユニットは、その機能が不可欠な
治療、メンテナンス、検査などに集中して用いられ
1日の稼働可能枠が増えます。
物理的な増設をせずに、
実質的な「ユニット追加」に匹敵するような効果が生まれます。
必要な資金もリスクも、拡張工事とは比較になりません。
多目的スペース、院長室等の一角、レイアウト変更で
対応できるケースも多いでしょう。
ただし、注意点があります。
オペレーションの設計は、想像以上にタイトになります。
誰が、いつ、どの業務を、どこで行うのか。
スタッフの動線と時間配分を細かく組み直す必要があります。
ここが甘いと、かえって現場が混乱します。
疑うことから始まる次の成長
新患増、キャンセル減、自費増、メンテ増…
この好循環が生まれた歯科医院には、
「復帰したい」と願うスタッフが集まってきます。
それ自体が、先生の歯科医院が
優れている何よりの証拠です。
ですが、その受け皿を用意する手段は、
拡張工事や分院展開だけではありません。
訪問診療で「場」を外に広げる…
ユニットを治療専用に戻して「時間」を取り戻す…
どちらも、数百万円単位の投資と
数年の回収期間を背負う前に、
真剣に検討する価値があります。
そして今日、先生にお願いしたい最初の一歩は、たった1つです。
「直近1週間、ユニットが
何に使われていたかを記録してみてください。」
・メンテナンス
・説明・カウンセリング
・待機(患者不在の空白)。
この4分類でユニットごとの時間をログするだけで結構です。
「単なる椅子」として使われている時間の
総量が、数字として見えてきます。
拡張の判断は、その数字を見てからでも遅くありません。









