「うちは普通ですから」が患者を遠ざける
先日、あるテレビ番組で
行列のできるトンカツ店が紹介されていました。
店主がこだわっていたのは、
特別な秘伝のタレでも、希少な銘柄豚でもありません。
「パン粉を毎朝、自家製で挽いている」
たったそれだけのことでした。
パン粉を自家製で挽く店は珍しくありません。
ところが、その工程をカウンター越しに見せ、
メニューにも写真付きで載せたところ、
「こんなに手間をかけているんだ」と
客の反応が一変したそうです。
プロにとっての「当たり前」は、
お客にとっては「知らない世界」だった——
これは飲食業に限った話ではありません。
あなたの歯科医院でも、毎日の診療で
当然のように行っていることがたくさんあるはずです。
滅菌の手順、器具の管理、
診療前の準備、患者ごとのグローブ交換……
あなたにとっての「普通」が、
患者にとっては選ぶ理由になるのです。
しかし多くの院長は、
「こんなことはどこでもやっている」と考えて、
あえて伝えようとしません。
今回は、この「当たり前を伝えない」という
もったいない習慣をどう変えるか、
具体的にお話しします。
「当たり前」をなぜ伝えないのか—3つの思い込み
「当たり前」を患者に伝えない院長には、
共通する3つの思い込みがあります。
思い込み①「どこもやっているから意味がない」
これが最も多いパターンです。
たとえば滅菌工程を考えてみてください。
薬液洗浄、超音波洗浄、パッケージング、
オートクレーブによる高温高圧蒸気滅菌…
あなたは「このくらい当然だ」と感じるでしょう。
しかし、患者はこの工程を知りません。
知らないものは比較のしようがない。
つまり「どこもやっている」は
あなたの頭の中だけの話なのです。
思い込み②「患者はわかっているはず」
歯科医師同士なら常識でも、
患者にとっては未知の領域です。
「グローブは患者ごとに交換している」
これを知っている患者がどれだけいるか、
考えてみてください。
実際には、交換しているかどうかすら
気にしたことがない患者も多いのです。
伝えなければ、やっていないのと同じ…
厳しいようですが、これが現実です。
思い込み③「アピールすると嫌味に思われる」
真面目な院長ほどこの罠にはまります。
「自慢しているようで気が引ける」という感覚ですね。
ここで重要なのは、
自慢と情報提供はまったく別物だということです。
患者が歯科医院を選ぶとき、
判断材料は驚くほど少ないのです。
あなたが提供する情報は、
患者にとって安心して選ぶための材料です。
嫌味どころか、むしろ親切なのです。
患者はあなたの「当たり前」を知らない
ここで一度、患者の立場になってみてください。
歯が痛くなった。
ネットで近くの歯科医院を検索する。
てくるのは「駅から徒歩3分」「土日診療」
「丁寧な説明を心がけています」…
どこも同じに見えませんか?
実は、患者が歯科医院を選ぶ判断材料は
驚くほど限られています。
立地、診療時間、口コミの星の数。
せいぜいそのくらいです。
技術力も設備も、患者には見えていません。
「情報の非対称性」
あなたと患者の間には、
圧倒的な情報の差があります。
これを専門用語で「情報の非対称性」と言います。
普通、この非対称性は
患者の不安や不信感の原因になります。
「何をされているかわからない」
「本当に必要な治療なのか」
こうした不安の正体です。逆に考えれば、
あなたが情報を開示するほど、
患者の不安は信頼に変わるということです。
伝えるだけで「選ばれる理由」が生まれる
たとえば、あなたの歯科医院でも
使い捨てのエプロンやコップを
患者ごとに交換しているとします。
あなたには当然のことでも、
それを院内掲示やホームページで伝えた瞬間、
患者にとっては「この歯科医院は信頼できる」
という判断基準になります。
ライバルとの差は、
やっていることの違いではありません。
伝えているかどうかの違いなのです。
「見える化」で実践3ステップ
では具体的に、
あなたの「当たり前」をどう伝えればいいのか。
3つのステップで整理します。
ステップ①:「当たり前」を棚卸しする
まずは、あなたの歯科医院で
日常的に行っていることを書き出してください。
滅菌工程、器具の管理方法、
カウンセリングの手順、
技工物の品質チェック体制…
「わざわざ言うほどでもない」と
感じるものほど候補です。
ポイントは、スタッフにも聞くことです。
院長が気づかない「当たり前」を
スタッフは意外と把握しています。
ステップ②:患者目線の言葉に変換
棚卸しができたら、次は表現の変換です。
「オートクレーブで滅菌しています」
これでは患者に伝わりません。
「すべての器具を134℃の高温高圧蒸気で
滅菌しています。病院の手術室と同じ基準です」
こう伝えれば、
専門知識がなくても安心感が伝わります。
専門用語を「患者の感情」に変換する。
これが見える化の本質です。
ステップ③:発信する媒体を選ぶ
伝える内容が決まったら、
どこで伝えるかを選びます。
すぐに取り組めるものを挙げると
・ホームページ:「当院のこだわり」ページに追記
※(等での表現は、医療広告ガイドラインに抵触しない範囲で行う)
・診察券やリーフレット:一言添えるだけでも効果あり
大がかりな動画制作や
SNS運用から始める必要はありません。
まずは院内掲示1枚。
これだけで患者の反応は変わります。
そしてここからが重要ですが、
この「見える化」は自由診療の成約にも効きます。
日常の衛生管理や丁寧な工程を知った患者は、
あなたの提案する自費の補綴や矯正にも
「この先生なら任せられる」と
感じやすくなるのです。
「当たり前」を書き出す
ここまでの話をまとめます。
あなたが毎日「当然のこと」として
行っている診療の工程や衛生管理は、
患者にとっては知らない世界です。
伝えなければ、やっていないのと同じ。
逆に伝えるだけで、
それがそのまま「選ばれる理由」になります。
ライバルとの差別化は、
特別な設備や技術だけで生まれるものではありません。
「伝えているかどうか」たったこれだけの差が、
患者の信頼も、自由診療の成約率も変えるのです。
今日、診療が終わったら5分だけ時間をとって、
あなたの歯科医院の「当たり前」を
3つ書き出してみてください。
滅菌のこと、カウンセリングのこと、
使い捨て器材のこと、何でも構いません。
その3つが、あなたの歯科医院を
患者に選ばれる歯科医院へ変える
最初の一歩になります。









