カリスマ経営者の突然の退任
数年前、ある中堅IT企業で起きた出来事が
私の記憶に強く残っています。
創業者である社長は、
社員300人を抱える企業を一代で築き上げた人物でした。
朝7時には出社し、夜は最後まで残る。
新規事業のアイデアは次々と湧き出し、
プレゼンでは聴衆を魅了する。
「あの人についていけば間違いない」
社員たちは口を揃えてそう言い、
実際、会社は右肩上がりで成長していました。
ところが、その社長が健康上の理由で
突然経営の第一線から退いた途端、
組織は驚くほど脆く崩れ始めたのです。
社員たちは「次に何をすべきか」を
自分で判断できなくなっていました。
新しい社長が就任しても、
「前の社長ならこうしただろう」という声ばかり。
わずか1年で、優秀な社員の3割が退職。
業績は急降下しました。
なぜ、こんなことが起きたのでしょうか。
答えは明確です。
強力なリーダーシップが、
組織を「依存体質」に変えてしまったからです。
実は、この現象は
歯科医院でも日常的に起きています。
それも、先生が想像する以上に
深刻な形で…
歯科医院でのリーダーシップ
「引っ張るリーダー」と依存体質
先生の歯科医院のこれまでの歴史の中で、
こんなチーフスタッフはいませんでしたか?
明るく積極的で、患者対応も完璧。
新人スタッフの教育も率先して引き受け、
診療後のミーティングでは次々とアイデアを出す…
「このスタッフがいれば安心」
先生もそう感じていたはずです。
ところが、そのチーフが退職したり、
産休に入ったりした途端、
医院の雰囲気が一変する。
それまで積極的だったスタッフが、
急に指示待ちになる。
患者からのクレーム対応で戸惑う。
新しいチーフを立てても、
「前のチーフはこうしてくれた」という声が出る。
これは決して珍しいケースではありません。
私がコンサルティングした200以上の歯科医院で、
少なくとも3割はこの問題を抱えていました。
なぜ、優秀なリーダーがいたはずなのに
組織が弱体化するのでしょうか。
実は、多くの人が抱く
「人を惹きつけてガンガン引っ張る」という
リーダーシップのイメージ…
実際の現場では、組織を脆くしてしまうのです。
カリスマ的なリーダーは
確かに短期的には成果を出します。
しかし、その強力な求心力は周囲のスタッフから
「自分で考える力」を奪ってしまうのです。
そして、リーダーがいなくなった瞬間、
組織は羅針盤を失った船のように漂流し始めます。
「共感型リーダーシップ」の力
では、どんなリーダーシップが
歯科医院には必要なのでしょうか。
答えは、「共感性に基づくリーダーシップ」です。
これは、冒頭のIT企業の社長や
カリスマ的なチーフとは全く異なるタイプになります。
一見すると地味で、目立たないかもしれません。
しかし、持続可能な組織を作るには
このタイプのリーダーが不可欠なのです。
共感型リーダーシップとはどんなものか。
それは、
その人の目標達成をサポートする
そんなタイプのリーダーシップです。
具体的に見てみましょう。
ある歯科医院の受付スタッフAさんは、
予約管理が苦手でした。
ダブルブッキングが月に2〜3回発生し、
そのたびに院長から注意を受けていました。
カリスマ型のチーフなら、「私がやっておくから」と
代わりに予約を入れてしまうでしょう。
一見、問題は解決したように見えます。
しかし、共感型のチーフは違います。
まず、Aさんに「どこで混乱するのか」を尋ねます。
すると、電話対応中にパソコン画面を見ながら
予約を入れるのが難しいと分かりました。
そこでチーフは、
「電話の横にメモ用紙を置いて、
一旦そこに書いてから入力する方法はどう?」
と提案しました。
Aさんは自分で試行錯誤し、
3週間後にはダブルブッキングがゼロを達成。
自分で問題を解決できたという自信が、
他の業務にも良い影響を与えました。
これが共感型リーダーシップの本質です。
リーダーが答えを与えるのではなく、
スタッフ自身が答えを見つけられるよう支援する。
依存ではなく、自立を促すのです。
院長や事務長、チーフであっても、
人間力や行動力で惹きつけられる人は
実はそう多くありません。
むしろ、共感性に強みを持つリーダーの方が
圧倒的に多いのです。
そして、それこそが
歯科医院に必要なリーダーシップなのです。
組織成長への3つの視点
では、共感型リーダーシップを
歯科医院で実践するには
具体的にどうすればいいのでしょうか?
3つの視点をお伝えします。
視点1. 「困りごと」を言語化させる
多くの院長は、
「何か困っていることはない?」と尋ねます。
しかし、この質問では
具体的な答えは返ってきません。
「患者説明で言葉に詰まるのはどんな時?」
このように、具体的な場面を特定する質問に変えてください。
スタッフ自身が問題を明確に認識できれば、
解決の糸口が見えてきます。
視点2. 答えを与えず、選択肢を示す
スタッフから相談を受けた時、
すぐに「こうしなさい」と指示していませんか。
それでは、スタッフは考える力を失います。
「Aという方法とBという方法があるけど、
どちらが先生のやり方に合いそう?」
このように、複数の選択肢を示して
スタッフに選ばせることが重要です。
自分で選んだ方法は、自分で改善しようとします。
視点3. 小さな成功体験を積ませる
いきなり大きな目標を与えると、
スタッフは萎縮してしまいます。
「今月は受付対応での笑顔を意識してみて」
「来週は1日1人、患者の名前を覚えよう」
このような達成可能な小さな目標を設定し、
できたら必ず承認する。
この積み重ねが、スタッフの自信と自立を育てます。
「依存させないリーダーシップ」へ
強力なリーダーシップは、
確かに短期的には成果を生みます。
しかし、それは組織を脆くし、
リーダー不在の時に機能不全を起こします。
歯科医院に本当に必要なのは、
スタッフの自立を促す共感型リーダーシップです。
人を惹きつけて引っ張る力ではなく、
困っている人に気づき、
その人が自分で解決できるよう支援する力。
この視点の転換が、
持続可能な組織を作ります。
まず、明日から実践してほしいことがあります。
スタッフとの会話で、
「どうすればいいと思う?」と
必ず1回は尋ねてください。
答えを与えるのではなく、スタッフに考えさせる。
この小さな習慣が、依存しない組織への第一歩です。
先生自身が「引っ張るリーダー」である必要はありません。
共感し、支援するリーダーであれば、スタッフは
自ら育ち、先生がいなくても動ける組織になります。
その変化を、ぜひ体感してください。









