悩む院長ほど、受け入れてしまう…
集患は、多くの院長先生にとって
尽きることのない悩みの一つです。
新規患者の予約が入るたびに、ほっとする…
そんな日々を過ごしている先生も
少なくないことでしょう。
だからこそ、目の前に現れた患者を
断るという選択肢はなかなか浮かびません。
「症状を訴える人を追い返すなんて、
医療従事者としてできない」
そう感じるのは、当然の感情です。
しかし、その優しさこそが、
先生の歯科医院を静かに疲弊させている
としたらどうでしょうか?
私は歯科医師として臨床に立ちつつ、
200を超える歯科医院の経営改善に
関わってきました。
その中で繰り返し見てきたのが、
「良い患者を増やしたい」と願いながら、
気づけばコンセプトに合わない患者に
振り回されている歯科医院の姿です。
本記事では、
なぜそうなってしまうのか?、そして
どうすれば本当に来てほしい患者だけを
集められるのか?をお伝えします。
「一人の例外」がコンセプトを壊す
たとえば、自由診療を軸にした
歯科医院を目指している先生が
いたとします。
インプラントや矯正、自由診療の補綴物など、
じっくり時間をかけて提供したい…
そのために設備投資もしてきた…
開業初期は狙い通り、
自由診療希望の患者が少しずつ増え、
手応えを感じ始めます。
ところがある日、
真面目に通ってくれている患者から
こう言われます。
「知り合いが急に歯が痛いと言っていて、
先生のところで診てもらえないかしら」
大切な患者からの依頼です。
断る理由もありません。
快く受け入れます。
一人受け入れると、
その患者はまた誰かを紹介してくれます。
「あそこは急な痛みでも診てくれる」
という評判が、じわじわと広がっていく。
気づけば、応急処置や
短時間の保険診療の急患が
アポイント帳を埋めるようになります。
本来じっくり時間をかけたい
自由診療のカウンセリング枠が、
どんどん削られていく…
先生自身は「患者が増えている」と
最初は喜んでいたかもしれません。
しかし、チェアタイムは逼迫し、
スタッフは慌ただしく動き回り、
自由診療の相談の時間は後回しになる…
そのうち、本命だった自由診療希望の患者は
「なんだか落ち着かない歯科医院になったな」
と感じ、静かに離れていきます。
結果として残るのは、
自分がやりたかった診療とは違う仕事に
追われる毎日です。
一人の例外を受け入れた瞬間から、
医院のコンセプトは
少しずつ崩れ始めていたのです。
「気持ちだけ」では必ずブレる
ここで一つ、
先生に問いかけたいことがあります。
先生の歯科医院のターゲット患者は、
紙に書き出せるレベルまで
明確になっているでしょうか?
「うちは自費中心でいきたい」
「予防に力を入れた歯科医院にしたい」
「働く世代の女性を大切にしたい」
そう頭の中で思い描いている先生は
たくさんいらっしゃいます。
しかし、
「思っている」と「決めている」は、
まったく別物です。
頭の中の理想は、
目の前に現れた一人の患者の前で
いとも簡単に崩れます。
「この人は長い付き合いだから」
「困っているから今回だけ」
その積み重ねが、先ほどお伝えした
”コンセプト崩壊の正体”です。
さらに深刻なのは、
スタッフには先生の頭の中が
見えていないということです。
電話で問い合わせがあったとき、
新患の予約を入れるとき、
スタッフには判断基準がありません。
基準がなければ、断る勇気も湧きません。
結局、すべての患者を
受け入れることになります。
先生が「気持ちだけ」で
ターゲットを決めている限り、
歯科医院は必ずブレ続けるのです。
断らないための「言語化」
では、どうすればよいのか?
答えはシンプルです。
「断る」のではなく、
「最初から来ない仕組み」をつくる。
そのために必要なのが、言語化です。
頭の中にある理想を、
先生自身とスタッフ全員が
同じ言葉で共有できる形に落とし込みます。
具体的には、
次の三つを紙に書き出してください。
①受け入れる/受け入れない診療科目
「自費のインプラントと矯正が中心」
「小児は対象外」など、
やる診療とやらない診療を
明確に線引きします。
曖昧にしておくと、
必ず境界線の患者が入ってきます。
②対象とする患者属性
年代、来院動機、
求める診療の質、
通院可能な範囲。
「じっくり時間をかけた説明を望む方」
「予防意識の高い方≒定期通院を厭わない方」など、
理想の患者像を具体的に描きます。
③その他の条件
初診カウンセリング必須、
自費相談前提、急患対応の可否、
予約ルール、重要な価値観内の優先順位…
このような事項の運用上のルールも
あらかじめ決めておきます。
言語化ができたら、
次はスタッフ全員での共有です。
電話応対の第一声から、判断基準が
統一されている状態を仕組みでつくります。
新患の問い合わせで
「その症状はうちでは対応していません」
と、受付が迷わず言える。
これが理想の状態です。
さらに、ホームページや院内掲示でも
診療方針を明示します。
ただし、医療広告ガイドラインには
十分ご留意ください。
「専門」などの表現には制限があります。
来院前、問い合わせ前に「合わない」と
患者自身が気づく仕組みができれば、
そもそも”断る場面”自体が激減します。
理由は「キャパオーバー」で十分
言語化ができても、
実際に電話で断る場面を想像すると
気が重い先生もいるはずです。
「専門外なので」
「うちの方針に合わないので」
こうした言い方は、
どうしても角が立ちます。
スタッフにも心理的な負担がかかります。
そこで使える魔法の言葉が、
「キャパオーバー」です。
たとえば、こう伝えます。
「現在、予約が大変混み合っており、
○○の診療につきましては
新規のお受け入れを
停止しております」
これで十分です。
物理的にスケジュールが埋まっている
という理由なので、患者側も納得しやすい。
スタッフも罪悪感なく、淡々と対応できます。
嘘をつく必要もありません。
本当にやりたい診療に集中するために
枠を空けておくのですから、
実質的にキャパは埋まっているのです。
まずは書き出す
ターゲット患者を集めるための出発点は、
先生の頭の中にある理想を
紙に書き出すことです。
今日、A4用紙を一枚用意して、
「新規で受け入れない診療科目・患者条件」を
三つだけ書き出してみてください。
たった三つで構いません。
それが、医院のコンセプトを守る
最初の一歩になります。
そして、その紙をスタッフと共有する。
断る理由は「キャパオーバー」で十分です。
もちろん、
「総合的に幅広く対応する歯科医院」
という選択肢もあります。
どちらが正解かは、
先生ご自身の戦略次第です。
大切なのは、「決めていること」。
迷わず前に進むために、
まずは一枚の紙から始めてください。
明日、その3つをスタッフと共有し、
問い合わせ時の確認方法を統一しましょう。
受け入れを広げることだけが集患ではありません。
守るべき診療の質を決め、
限られた経営資源を集中させるのです。
それが、患者にもスタッフにも無理を強いない、
持続可能な歯科医院経営の第一歩です。









