Last Updated on 2024.7.28 by 近 義武
今回はクイズから!
心理学者のジェニスとフェッシュバッハが行った、
心理実験の結果を予測をしてもらいます。
たまたまですが「歯磨き」が題材になっていますので
難しく考えずに考えてください。
まず準備として、被験者を集めて4つに分け、彼らに
「歯磨きをきちんと行おう」というレクチャーをしました。
・Aグループには「まぁ、歯磨きしてね」(脅しなし)
・Bグループには「虫歯になるからきちんと歯磨きしてね」(弱い脅し)
・Cグループには「虫歯になって歯に穴が開き、治療も大変だからきちんと歯磨きしてね」(中位の脅し)
・Dグループには「虫歯で顎までダメになり、身体にも影響出るから、きちんと歯磨きしてね」(強い脅し)
このように内容を変えてレクチャーを行い、最後に「歯磨きをしよう」と提案して終了しました。
では問題です。
実際に「きちんと歯磨きした」割合を多い順に並べるとどうなったでしょうか?
答えは、アドバイスに従った割合が高い順にBーCーDーA。
しかもA(脅しなし)とD(強い脅し)がほとんど変わらない結果でした。
クイズにするくらいですから、意外と言えば意外な結果ですよね。
患者に嫌われる!
さて、我々歯科医師は、患者に、こちら側の言い分を認めさせつつ、
なおかつ患者に嫌われないようにしないとなりません。
嫌われてしまえば、治療の中断や転院などの可能性が高まってしまいます。
そこで、患者との会話には十分な配慮が必要になるのですが、
実験の結果から、脅し無しでは指示に従ってくれないし、
そうかと言って強く脅しても、やはり指示には従ってくれない…
実験結果を踏まえると、アドバイスに従った割合が高い「弱い脅し」、
そしてその応用となる「弱い禁止」や「弱い指示」などによって患者を
我々が行なってほしい行動へと誘導するのが良さそうだということになります。
そうはいっても、悲観的な話や、厳しい話も時にはしなくてはなりません。
先延ばしにしてもいずれは話すことになります。
あまり遅くなるようだと、今度はそれを理由に嫌われてしまいそうです。
「強い脅し」「強い禁止」「強い制限」は反発される…
仕方なく伝えても患者の心証が悪くなる…
正直、やっていられない感覚です。
では実際にはどうしたら良いのでしょうか?
パッケージにして渡す
結論から先に言いましょう。
『患者にとってのツラい情報は耳触りの良い優しい言葉とセットで渡す』です。
優しい口調で話すのではありません。
「ツラい話」プラス「優しい言葉」を連続して話す、ということです。
こうすることで「強い脅し」「強い禁止」「強い制限」などは緩和され、
患者の心証の悪化にも歯止めが利きます。
このテクニックは、結構ポピュラーなので既知の方も多いでしょう。
では、「ツラいこと」「優しいこと」話す順番はご存知ですか…?
相手のことを褒めたり、認めたり、肯定してから…というなら
「優しいこと」が先にきますよね。「Yes-But法」的な考え方です。
エモーショナルに響かせるのなら「ツラいこと」が先の方が有利です。
あとから話す「優しいこと」でフォローをする感じです。
どちらにも一理ありますから、順番に迷うところです。
しかし、今回は患者に嫌われずに、いかにして「ツラいこと」を伝えて
こちらが意図した行動を促せるか、が評価の原点になっています。
ならば、両者の良いとこ取りをしましょう。
患者にとって「ネガティブな話」を「ポジティブな話」で挟んでしまいましょう。
「優しい話」→「ツラい話」→「優しい話」というように、
最初も最後も「優しい話」にするのです。
これで「ツラい話」の中の「患者に嫌われる成分」がかなり薄められます。
だからといって何を発言してもイイというわけではありません。
そこにはやはり配慮は必要です。
最初の「優しい話」でセイフティネットを張ってから
「ツラい話」で伝えるべき情報を正確に伝え
最後の「優しい話」で中和して後味をよくする…
面倒ですが、こうでもしないと、
患者のために伝えた話によって患者があなたから離れていく…
こんな理不尽な現象を回避できません。
関係性を底上げする
患者の心は(自業自得なのに)弱いという認識は常に必要です。
ですので、別の角度からのアプローチもあります。
それは、「ツラい話」を伝えるまでに、
あなたとその患者との関係性をより高めてしまうことです。
関係性が良好であればあるほど、患者はあなたから
「ツラいこと」を伝えられても、より冷静に受けとめてくれます。
それはそうだろうけれど、具体的にどうするんだ?とお思いかもしれません。
そこで、患者との関係性を向上させるアクションプランを2つ紹介しておきます。
どちらも簡単で資金投下も不要な方法ですのでをお試しください。
患者と接する機会を増やす
通院回数を増やすのが最も簡便で効果的です。
直接会いたいする以外にも、メール、メッセージ、電話、ビデオレター、
動画、チラシ、音声、パンフレットなど、あなたの言葉として伝わるなら
形式はなんでも構いません。
不特定多数に対して共通の発信よりも、個別に対応した方が
効果が大きくなります。
また、1回1回のボリュームはさほど関係なく、
接した機会の数によって、関係性が上がっていきます。
これは「単純接触効果」「ザイオンス効果」として実証された
心理効果の活用になりますので、簡単ですが強力です。
患者に話させる
「患者と会話をしなさい」と、あなたも言われたことはありませんか?
そう言われて素直に患者との会話を増やしている先生は多いのですが、
ほとんどの方が「一方的な通達」の終始しています。
会話は患者が話して初めて成り立ちます。
患者に話させることで「会話」が成立し、「あなたと会話」することで
患者はあなたとの関係性を少しずつ高めていきます。
日常臨床の中で、患者の話を聞く時間を作り続けるのは
その分だけ診療のスピードを上げる必要が生じたりしますから
導入直後は少し戸惑うかもしれません。
ただ、先ほど示した単純接触効果との相性も良いので
意識して患者に話を、会話をさせるように仕向けると良いでしょう。
気負わず場数を踏めば、意識せずとも行えるようになります。