なぜか「高い」と言われる…?
先生は、こんな経験ありませんか?
渾身の技術で仕上げたセラミッククラウン。
マイクロスコープを駆使し、寸分の狂いもなく形成した
支台歯とそれへの完璧な適合とシェード。
これ以上ない、と自負できる治療を提供したはずなのに、
会計の際に患者がふと漏らす
「やっぱり、高いんですね…」の一言。
あるいは、自信を持って提案したインプラント治療が
「少し考えさせてください」の一言で保留になってしまう。
先生の技術は、間違いなく一級品です。
臨床系のセミナーにも足繁く通い、
知識も経験も、近隣のどの歯科医師にも負けない…
その自負があるからこそ、
患者からのその一言が、
深く胸に突き刺さるのではないでしょうか。
「価値を分かってくれていない…」
「これだけのことをやっているのに…」
その悔しさ、私も痛いほど分かります。
かつての私も全く同じ悩みを抱えていたからです。
ここで、少しだけ想像してみてください。
もし、全く同じクオリティの治療を、
全く違う二つの環境で提供したとしたら…?
一つは、受付の電話が鳴り響き、
スタッフが慌ただしく走り回る歯科医院。
ユニットのライトにはホコリが溜まり、
説明用の資料は少し黄ばんでいる。
そしてもう一つは、静かなBGMが流れ、
ほのかにアロマが香る歯科医院。
カウンセリングルームはプライバシーが守られた個室で、
モニターには美しい症例写真が映し出されている。
先生ご自身が患者なら、
どちらの歯科医院で提示された治療計画に、
より「価値」を感じるでしょうか。
どちらの歯科医院の「高いんですね」に、
ポジティブな響きを感じるでしょうか。
おわかりですよね。
中身がどれほど素晴らしくても、提供する際の「器」、
つまり治療を取り巻く環境や演出が貧弱であれば、
患者が感じる価値は驚くほど目減りしてしまうのです。
どんなに腕の良い鮨職人が握った極上の中トロも、
コンビニのおにぎりが入っていたような
プラスチックのパックで出されたら、
ありがたみも美味しさも半減してしまいますよね。
それと同じことが、
先生の歯科医院でも起きているのです。
患者は、先生の技術レベルを
ミクロン単位で評価することはできません。
彼らが治療の価値を判断する材料は、
先生の腕そのものではなく、生み出された治療を
「どう受け取ったか」という、極めて感覚的な情報なのです。
この記事では、その「感覚的な情報」を
意図的にコントロールし、先生が提供する
歯科医療の本当の価値を患者に正しく伝えるための
具体的な方法についてお話ししていきます。
もう、不当に「高い」なんて言わせません。
先生の素晴らしい技術に、ふさわしい評価と対価を。
そのための第一歩を、ここから始めましょう。
治療の価値を半減させる「見えない情報」
先ほど、治療を取り巻く「器」が重要だとお伝えしました。
なぜ、患者は治療そのものではなく、
その周辺情報にこれほどまでに影響されてしまうのでしょう。
実は、これには心理学的な裏付けがあります。
これを『文脈効果』と呼びます。
難しく考える必要はありません。
とてもシンプルな話です。
例えば、
「彼は冷たい性格だ。そして落ち着いた人物だ」
という2種類の紹介。
後半の文章は全く同じですよね。
しかし、先生が受け取る印象は全く違うはずです。
前者なら「穏やかで思慮深い」と感じやすく、
後者なら「クールで冷静・冷徹」と感じやすいでしょう。
これが『文脈効果』です。
つまり、人は何かを判断するとき、
その対象を単体で見ているわけではないのです。
対象の前後に与えられた情報や、
置かれている環境といった前後の「文脈」によって、
無意識に判断を左右されているのです。
これは、歯科医院の経営においても
極めて強力に作用します。
患者は「インプラント治療そのもの」の
絶対的な価値を正確に評価することはできません。
彼らが判断しているのは、治療という「本体」と、
それを取り巻く全ての「文脈」を合わせた総体なのです。
例えば、
・院内の清潔感や雰囲気、音、光景、香り
・使われている器具の扱い方
・説明に使われる言葉遣いや資料の質
これら一つひとつが「文脈」となって、
患者の頭の中で、先生が提供する治療の価値が
「高く」あるいは「安く」判断されるのです。
つまり、先生がどれだけ完璧な治療を施しても、
それ以外の「文脈」が治療の価値を毀損していれば、
患者は「よく分からないけど、高い」と感じるということ。
言い方を変えるなら、この『文脈効果』を理解し、
戦略的に活用すれば、先生の治療価値を高めて、
患者に「この価値で、この価格なら妥当だ」と
納得してもらうことが可能になるのです。
心を掴む「価値演出」の三種の神器
では、具体的にどうすれば
『文脈効果』を味方につけられるのでしょうか。
最初から断っておきますが、高価な投資は不要です。
そして今日の午後からでも実践できる
「価値演出」の三種の神器をお伝えします。
重要なのは、患者の五感に訴えかけ、
「この歯科医院は特別な場所だ」と
無意識に感じてもらうことなのです。
神器その1:空間の演出【清潔感の”先”】
患者が求めているのは、
確かに衛生的な空間ではありますが、
真に望んでいるのは、衛生的な上で心地よい空間です。
リラックス効果のあるアロマ(ラベンダー等)を
ほのかに香らせ、入った瞬間の印象を変えましょう。
BGM: テレビではなく、医院のブランドイメージに合った
静かなクラシックやジャズを選びましょう。
音量は会話を邪魔しない程度に。
照明: 待合室は暖色系、カウンセリングルームは間接照明、
診療室は機能的な白色光、と空間ごとに照明を変えるだけで、
患者の心理的なスイッチを切り替えられます。
さらに、壁紙や床材、天井の色味や模様・柄、
観葉植物や装飾品(絵画等)などについての
心理効果を考慮し、統一感を演出することで
院内の雰囲気をある程度コントロールできます。
神器その2:物品の演出【”神”は細部に】
患者は自分に使われる物をよく見ています。
その扱い方一つで信頼度が変わります。
ラミネート加工するか、iPadで美しい症例写真を見せ
「あなたのために最高の提案す」という姿勢を伝えましょう。
インスツルメント: 特に自由診療で使う器具は、
単なる道具ではありません。例えばインプラントオペの際、
滅菌パックから器具を一つひとつ丁寧に並べてください。
一連の動作が、治療の”特別感”と”安全性”を雄弁に語ります。
神器その3:言葉と所作の演出【凡事を”非凡”に】
日々の行動や言葉遣いに少し「演出」を加えるだけで、
患者満足度は飛躍的に向上します。
e.maxという特別な素材でして…」といった一言が
治療の専門性を際立たせ、”高度な医療”の実感を湧かせます。
Before/Afterの感情的提示:
治療後の写真をただ見せるのではなく、治療前の写真と並べて
「ご覧ください、この部分がここまで自然な歯になりましたよ」
と、少し間を置いて感動を共有するように語りかけましょう。
患者が自らの変化を実感し、価値を再認識する瞬間です。
応用範囲は無限です。常にどうすれば、
”この治療の価値がもっと伝わるだろうか?”
と、自問自答することが、その第一歩です。
スタッフが自律的に働く魔法の言葉
さて、この『文脈効果』、
実はうれしい副作用があります。
それは、患者だけでなく、
先生の頭を悩ませるスタッフマネジメントにも
絶大な効果を発揮するということです。
「もっと丁寧に器具を並べて」
先生がいくら口を酸っぱくして指示しても、
なぜか徹底されない…自ら考えて働かない…
そんなスタッフはいませんか?
特に、アシストや受付業務以外の、
医療とは直接関係なさそうに見える業務で
その傾向は顕著になりがちです。
なぜなら彼女たちは、その業務の
「本当の意味」を理解していないからです。
「なぜ、BGMにまで気を遣うの?」
と、心のどこかで納得していないのです。
そんなスタッフにこそ、
『文脈効果』を説明してあげてください。
ただ「やれ」と命令するのではなく、
「なぜ、それをやる必要があるのか」という理由、
つまり業務の必然性をロジックで示すのです。
待合室まで漂ってくる消毒液の匂いは、
患者さんを緊張させてしまうんだ。このアロマの香りにはリラックス効果があって、
患者さんが安心して治療を受ける心理状態を作るんだ。
実はこれも、治療の一環なんだよ。
インプラントの器具を丁寧に並べるのは、
患者さんに安心と信頼を与えるための大切な演出なんだ。このひと手間で治療の価値が伝わり、クレームを防ぐ。
君の仕事が医院の評価を左右するんだよ。
このように伝えるのです。
すると、どうでしょう。
今まで「やらされ仕事」だった単なる作業が、
「患者満足度を高め、医院の価値を創造する」という
専門性の高い、重要なミッションへと変わります。
自分の仕事が、治療の成否や医院の評価に
直結していると理解できたとき、
スタッフの目の色が変わります。
「どうすれば、もっと患者さんの気分をよくできるだろう?」
「どう行動したら、患者さんに喜んでもらえるだろう?」
と、自ら考え、行動するようになるのです。
この思考と行動は、スタッフ自身の成長と評価にも繋がる、
と付け加えるのを忘れないでください。
『文脈効果』は、
スタッフのモチベーションに火をつける
魔法の言葉にもなるのです。
価値は”創る”のではなく”伝える”
ここまでお話ししてきたことは、
小手先のテクニックではありません。
先生が日々提供している「良い治療」という哲学を、
どうすれば患者に、そしてスタッフに
「正しく伝える」ことができるか、という本質的な課題です。
素晴らしい治療という「中身」を、
先生はすでにお持ちです。
あとは、それを入れる「器」を磨くだけ。
価値は、創り出すものではない。
すでにそこにある価値を、いかに伝えるか。
この視点を持つだけで、先生の歯科医院は変わります。
「神は細部に宿る」と言います。
患者もスタッフも、先生がこだわる「細部」を見ます。
まずは一番簡単なことから始めましょう。
明日、待合室のBGMを変えてみませんか?
その小さな変化が、やがて医院全体を大きく変える
ドミノの最初の一枚になるはずです。
次は「香り」、そして「照明」です。
これらを少しずつ進めていきながら
考えてほしいことがあります。
より本質的な”問い”になります。
それは「そもそも誰に、何の価値を伝えるのか?」です。
どれだけ素晴らしい演出をしても、
それが求める患者像に響かなければ意味がありません。
先生の卓越した技術を、本当に必要とし、
正当に評価してくれる患者に来てもらうための
戦略が必要となるのです。









