あなたの歯科医院は誰のためにあるのか?
大型ショッピングモールで見かけた
あるお店の光景が印象に残っています。
そのお店は「すべての人に何かを」というコンセプトで、
実に多様な商品を所狭しと並べていました。
しかし、店内には客がほとんどおらず、
隣接する輸入雑貨専門店には行列ができていました。
この光景、実は歯科医院経営の現状と
驚くほど似ているのです。
あなたの歯科医院のホームページや
チラシを見直してみてください。
「家族みんなの」
「痛くない治療」
「最新設備」…
こういったフレーズばかりが並んでいませんか?
残念ながら、こうした「誰にでも」というメッセージは、
実際には「ほとんど誰にも」届かないのです。
なぜなら日本の歯科医院数は
約68,000件を超え、コンビニエンスストアの
約55,000店舗よりも多いという現実があります。
このライバルが多数存在する状況で
「誰にでも」と訴えても患者の心には響きません。
むしろ「利便性」だけで選ばれる
ただの通過点になってしまうリスクが高いのです。
私はこれまで多くの歯科医院の経営改善に携わってきましたが、
新規患者獲得の改善に成功してきた歯科医院には共通点があります。
それは「対象を明確にしている」ということです。
歯科医院は差別化が難しい!
歯科医院の差別化が難しい理由は一目瞭然です。
まず、窓口負担金が保険で決められているため
価格競争ができません。
また、提供する保険での診療内容も
ある程度標準化されています。
加えて、患者は歯科医学についての専門知識がないため
治療の質やレベルを正確に判断できないのです。
あなたの歯科医院で行っている治療が
どれほど高品質であっても、患者には
その違いが見えにくいという現実があります。
ある院長先生はこう嘆いていました。
「10年かけて磨いた技術があるのに
患者はそれを評価してくれない」と。
これは歯科医師なら誰もが
感じたことがあるのではないでしょうか?
そんな状況でありながら、日本の歯科医院は
1キロ四方に3〜4件という驚異的な密度で存在し、
年々その数は増え続けています。
東京や大阪の駅前では、同じビル内に
複数の歯科医院があることも珍しくありません。
このような環境では、患者は何を基準に
歯科医院を選ぶのでしょうか?
多くの場合、その答えは「家から近い」「職場の近く」
「駅から便利」「診療時間が生活に合っている」といった
単なる「利便性」になってしまうのです。
少し前に行われた患者アンケート調査では、
歯科医院選びの1番の理由は「立地」で約65%、
「医師の専門性」を理由に挙げたのは
わずか12%に過ぎませんでした。
つまり、あなたが何年もかけて習得した
専門技術や知識よりも、単に「近い」という理由で
選ばれているかもしれないのです。
これは悲しい現実ですが、
ビジネスとしての歯科医院経営を考えるなら
直視しなければならない事実です。
競争激化時代の勝ち残り戦略
マーケティングの基本原則として、
市場規模と戦略には明確な関係があります。
マーケットが小さく競合が少なければ、
幅広い層を対象にした方が良いでしょう。
例えば、人口5000人の町に
歯科医院が1件だけなら、
全住民を対象にすべきです。
しかし、現実の都市部の歯科医院はそうはいきません。
競合が10件以上ひしめく環境では、
「すべての患者に対応します」というメッセージは
ある意味”逆効果”なのです。
なぜなら、そのようなメッセージは
「特に得意なことはない」と発言しているわけね!
と患者に伝わってしまうからです。
私がコンサルに入ったある歯科医院は、
開業当初は「家族みんなのかかりつけ医」を掲げていました。
結果は、月の新規患者は10人程度で大苦戦です。
そこで戦略を変え、
「30〜40代の女性に特化した審美歯科」という
明確な対象を設定したのです。
ウェブサイトやチラシも全て
この対象に向けたメッセージに変更しました。
すると、開始からわずか4か月で
新規患者数は月30人を超え、
しかも自由診療比率が40%まで上昇したのです。
興味深いことに、対象を絞ったにも関わらず
総患者数は減るどころか増加しました。
これはマーケティングにおける
「尖らせる効果」と呼ばれるものです。
「すべての人に何かを」よりも
「特定の人に確実な価値を」の方が
強いメッセージとなるのです。
対象を絞ることで、次のようなメリットが生まれます。
2. 患者の共感と信頼を得やすくなる
3. 口コミが発生しやすくなる
4. スタッフの教育や設備投資が効率化される
5. 価格競争に巻き込まれにくくなる
「でも患者を選ぶなんて、医療倫理に反するのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、これは患者を拒否することではなく、
「特に力を入れて価値を提供する対象」を
明確にするということです。
結果として、あなたの歯科医院の特徴が鮮明になり、
より多くの患者に選ばれるようになるのです。
すぐ始める、歯科医院の対象者戦略
ここまでお読みいただければ、
対象を明確にすることの重要性を
理解していただけたと思います。
では、何をすべきでしょうか?
まずは、既存の患者データを分析してみてください。
年齢、性別、住所、来院理由、治療内容など、
お持ちのデータから見えてくるパターンがあるはずです。
次に、あなた自身の「得意」と「好き」を
紙に書き出してみましょう。
インプラント、矯正、審美、小児歯科…
あなたが情熱を持って取り組める分野は何でしょうか?
そして、患者のニーズとあなたの強みが交わるポイントを
見つけることが重要です。
例えば、「働く女性に特化した予防歯科医院」や
「子育て育メンを支えるトータルオーラルケア」など、
具体的なイメージを作ってみてください。
この対象設定ができたら、ホームページの
トップページだけでも変更してみましょう。
「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを
明確に伝えるだけで、反応は大きく変わります。
競争が激しくなるほど、
歯科医院としての「個性」が重要になります。
対象を絞り込むことは、
すべての患者を失うリスクではなく、
真に価値を提供できる患者を
惹きつけるチャンスなのです。
勇気を持って、明日から
あなただけの対象者戦略を開始してください。