キャッシュを守る節税と削る節税の決定的違い
こんにちは、近です。
今年も後半戦に入りましたね。
上半期の業績がまずまず良かった先生は
「税金を払うくらいなら、
何か買っておいた方が得ではないか?」
そんな気分が強くなりやすいものです。
「どうせ買わなければならない機器を
今期中に購入してしまおうか?」
この判断、歯科医師であれば
一度や二度は考えたことがあるのではないでしょうか。
むしろ「それが当たり前の節税だ」と
確信を持っている先生も多いはずです。
ところが、この”常識”には
大きな落とし穴が潜んでいます。
「節税になるから買う」という判断が、
気づかないうちに歯科医院の体力を
じわじわと奪っているとしたら、どうでしょうか。
私はこれまでたくさんの歯科医院の
経営改善に携わってきました。
その中で繰り返し目にしてきたのが、
「節税のつもりが、キャッシュ不足に陥る」
という、ある意味で典型的なパターンです。
今回は、個人開業(青色申告)における
節税の本質と、歯科医院経営において
本当に守るべきものは何かを、
一緒に考えていきましょう。
節税の正体:税金減でキャッシュも消える
まず、節税の本質を整理しておきましょう。
本来の節税とは、
「税金が減って、キャッシュは減らない」
という状態を指します。
たとえば、小規模企業共済や経営セーフティ共済への加入は、
掛け金が所得控除になりながら、
将来的に資金として戻ってくる仕組みです。
これが「本来の節税」に近い考え方です。
一方、個人開業(青色申告)における
設備・機器購入による節税は、どうでしょうか。
購入費用が経費として計上されるため、
課税所得は下がり、税額も減ります。
一見すると、賢い選択に見えます。
ところが、実態は
「税金も減るが、キャッシュも同時に減る」
という構造です。
たとえば、100万円の機器を購入したとします。
仮に税率30%なら、節税効果は30万円。
しかし手元からは100万円が出ていきます。
差し引き70万円のキャッシュが、
その瞬間に歯科医院から消えるのです。
「節税のために買った」はずが、
実質的には70万円のコスト負担です。
節税効果よりも、経営へのマイナス効果の方が
はるかに大きいことに気づいてください。
しかも、購入した機器が
すぐに十分な収益を生むとは限りません。
導入コストに見合う診療報酬を回収するまでに、
相当な時間がかかるケースも珍しくないのです。
「税金の痛みを和らげるために、
虎の子のキャッシュを差し出している」
そう言い換えると、この判断の危うさが
よりはっきり見えてくるのではないでしょうか。
「キャッシュの厚み」が必要な理由
では、なぜ先生の歯科医院において
キャッシュの確保がそれほど重要なのでしょうか。
歯科医院は、他の業種と比べて
固定費の比率が非常に高い経営構造です。
スタッフの人件費、家賃、リース料、
ユニット(診療台)のメンテナンス費……。
患者が来ようと来まいと、
毎月一定額のコストが発生し続けます。
月商300万円前後の歯科医院であれば、
人件費だけで売上の30~40%を占めることも
珍しくありません。
開業資金の返済が残っていれば、
さらに手元に残るキャッシュは薄くなります。
そこへ、コロナ禍のような
予測不能な事態が重なったとしたら、どうでしょうか。
患者の来院が突然激減しても、
固定費は容赦なくかかり続けます。
キャッシュの蓄えがなければ、
数ヶ月で資金繰りが行き詰まります。
さらに歯科医院には、
定期的に大きな設備投資が必要という
避けられない現実があります。
診療ユニットの耐用年数はおよそ15年。
レントゲン設備、滅菌器、CAD/CAM機器など、
高額な医療機器の更新は定期的にやってきます。
内装のリフォームも、
患者に選ばれ続けるためには欠かせません。
これらの再投資資金は、
日々の診療で積み上げたキャッシュから
捻出するしかないのです。
「節税のために今期中に機器を買う」という判断は、
その大切な再投資の原資を
前倒しで使い切ってしまう行為とも言えます。
キャッシュが潤沢に積み上がり、
不測の事態にもびくともしない体力がついてから、
はじめて「節税のための設備投資」を
検討の俎上に載せるべきです。
その順序を間違えないでください。
経費抑制が、手元資金を育てる
では、キャッシュを守りながら
税負担とも上手に向き合うには、
どう考えればよいのでしょうか。
答えはシンプルです。
「経費を増やして税金を減らす」ではなく、
「経費を抑えてキャッシュを残す」
という発想への転換です。
青色申告の場合、経費を抑えれば
課税所得は上がり、税額も増えます。
一見すると損をしているように感じるかもしれません。
しかし冷静に考えてみてください。
税率が30%であれば、
100万円の利益に対して払う税金は30万円。
残りの70万円は、確実に手元に残ります。
概算経費率を採用するなら、なおさら
社会保険診療報酬が年5,000万円以下の場合、
概算経費率(措置法26条)を選択できます。
この制度では、実際の経費がいくらであっても
一定率で経費が計算されます。
ということは、実際の支出を抑えるほど
「概算経費」と「実額経費」の差額が広がり、
手元に残るキャッシュが増えるわけです。
節税のために設備を買い増すという行動は、
この措置法差額のメリットすら
自ら潰していることになります。
あなたは「税金が減った額」だけを見て
安心していませんか?
本当に見るべきは、手元にいくら残ったかです。
「節税のために100万円を使う」と、
手元には何も残りません。
税金の30万円を惜しんで、
70万円のキャッシュまで手放しているのです。
経費を抑える意識こそが、
歯科医院の手元資金を着実に育てる
最も確実な方法です。
「税金を払いたくない」という感情は自然です。
ただ、その感情に引きずられて
経営判断を誤らないようにしてください。
税金は、利益が出た証拠でもありるのです。
今日から始める”キャッシュファースト”
今回お伝えしたことをまとめます。
個人開業(青色申告)における設備購入型の節税は、
「税金は減るが、キャッシュも減る」という構造です。
節税効果よりも、失うキャッシュの方が大きい。
この事実から目を背けないでください。
歯科医院には、人件費・設備更新・
不測の事態への備えなど、
キャッシュが必要な場面が絶えずやってきます。
その原資を、節税の名のもとに
前倒しで使い切ることは避けるべきです。
税金の痛みより、
キャッシュが尽きる痛みの方がはるかに深刻です。
その順序を、どうか間違えないでください。
概算経費率(措置法26条)を選択している方はなお一層、
この措置法差額のメリットを潰さないでください。
今日からできる、アクションプラン
前期の確定申告の数字を手元に出して、
「この支出は本当に必要だったか」を
見直してみてください。
節税目的で購入した機器や備品が
1つでもあれば、それが見直しのスタート地点です。
キャッシュを守る意識が根づいたとき、
歯科医院経営は確実に安定へと向かいます。
「キャッシュファースト」の発想を、
今日から経営の軸に据えてください。
※本記事の内容は経営的観点からの情報提供を目的としています。
税務上の判断については、顧問税理士にご確認ください。









