「目的」と「手段」の違い
クラッシック音楽やオペラ、落語や歌舞伎、狂言などの世界では
同じ演目を異なる演者、異なる指揮者、異なる監督などによって
新たな解釈がなされたり、魅力が発掘されたりがよくあります。
私自身はクラッシック音楽やオペラなどには馴染みがないので
何がどう違うのかすらさっぱりわかりませんが、
落語は一時、寄席通いをしたことがあるのでちょっとわかります。
同じ噺なのに、展開もオチもわかっているのに
演者ごとに受ける印象や空気感が異なる…
そんな瞬間があります。
上手い下手の話ではなく、
「何を届ける舞台か」が違っているので
言い回しや間の取り方、演じ方が違うのだと思っています。
台本通りに演じる(手段)ことに集中しすぎるようだと、
観客に伝えたい・感じてほしいことが希薄になるそうで、
観客を楽しませること(本来の目的)もできないそうです。
これに似たようなことが、歯科医院経営でも
驚くほど頻繁に起きているのではないでしょうか。
・毎朝朝礼をしているのにチームワークが改善しない…
・自費診療の説明をしているのに成約率が上がらない…
もしかしたらそれは、
目的と手段の区別が曖昧になっているサインかもしれません。
私は200以上の歯科医院の経営改善をサポートしてきましたが、
伸び悩んでいる医院には共通点があります。
それは「何のためにやっているのか(目的)」が
院長もスタッフも明確に言語化できていないことです。
逆に、急成長している医院は例外なく、
目的と手段をはっきり区別しています。
そして、その区別ができているからこそ、
スタッフが創意工夫を発揮できる環境が生まれているのです。
今日は、この「目的と手段の区別」という
シンプルだけれど決定的に重要なテーマについて、
具体的にお話ししていきます。
目的と手段の逆転
ある歯科医院での出来事です。
院長から「リコール率を上げたい」という相談を受けました。
スタッフは毎月、定期検診の案内葉書を
きちんと送付していました。
送付リストも作成し、発送作業も漏れなく実施。
でも、リコール率は一向に改善しない。
私が「葉書を送る目的は何ですか?」と尋ねると、
スタッフは即答しました。
「毎月の業務だからです」
ここに問題の本質が隠れています。
葉書を送ること自体が目的になってしまっていたのです。
本来の目的は「患者に再来院してもらうこと」
手段は葉書だけではないはずです。でも目的が曖昧だと、
送付作業が完了した時点でスタッフの意識は終わります。
「タスクの消化」が目的ですか?
こうした目的と手段の逆転は、
歯科医院のあらゆる場面で起きています。
朝礼を開催することが目的になっている
→本来の目的は「情報共有と意識統一」なのに、
ただ毎朝集まって形式的に話すだけ。
自由診療の説明をすることが目的になっている
→本来の目的は「患者に最適な治療を選択してもらうこと」なのに、
説明資料を見せることで満足してしまう。
院内研修を実施することが目的になっている
→本来の目的は「スタッフのスキル向上」なのに、
年間計画通りに研修を消化することが目標に。
こうした状態が続くと、どうなるか。
担当者の気分次第で行動が変わるようになります。
更に応用や臨機応変な対応がまったくできません。
そして、医院全体が伸び悩んでいくのです。
あなたの歯科医院でも、
「とりあえずやっている」業務はありませんか?
それは本当に目的を達成しているでしょうか?
言語化が生む「創意工夫の余地」
では、目的と手段を明確に区別できると、
何が変わるのでしょうか。
答えは明快です。
スタッフが自分の頭で考え、
工夫する余地が生まれるのです。
先ほどのリコール葉書の例で言えば、
目的が「患者の再来院」と明確になった瞬間、
手段の選択肢が一気に広がります。
別のスタッフはSNSでのコミュニケーションが上手かもしれない…
受付担当は会計時の声かけで関係性を築けるかもしれない…
目的さえ達成できるなら、
そして他に弊害がないなら、
手段は担当者がやりやすいように
創意工夫をしても構わないはずなのです。
これは医院にとって計り知れないメリットがあります。
画一的なマニュアル対応では、
スタッフ個々の強みは活かされません。
しかし、目的を共有した上で手段を任せると、
各自が最も力を発揮できる方法を選択できます。
ある医院では、リコール業務を一から見直しました。
目的を「3ヶ月後の再来院率70%以上」と数値化し、
手段はスタッフに一任したのです。
結果、ベテランスタッフは電話でのフォローを、
若手スタッフはLINEでの情報発信を担当。
再来院率は実施後半年で52%から73%に向上しています。
重要なのは、
「目的の明確化」と「手段の自由度」のバランスです。
目的が曖昧なまま自由にさせると、バラバラになりかねませんが、
目的が明確なら、多様な手段が相乗効果を生むのです。
段階的な権限委譲が成功の鍵
ここで注意が必要なのは、
入職したばかりのスタッフに
いきなり手段を任せてはいけないということです。
なぜなら、新人スタッフは
あなたの歯科医院の価値観を
まだ深く理解していないからです。
「患者の再来院」という目的を伝えても、
その背景にある医院の理念や
大切にしている対応の質を知らなければ、
適切な手段を選択できません。
だからこそ、権限委譲には段階が必要なのです。
権限委譲の3つのステージ
【ステージ1:手段も指定する】
入職直後は、目的と手段の両方を明確に指示します。
「リコール率向上のため、この文面の葉書を月初に送る」
というように、やり方まで具体的に示す段階です。
【ステージ2:選択肢を提示する】
医院の価値観を理解してきたら、
複数の手段から選ばせる段階に移行します。
「葉書、電話、LINEのうち、どれが効果的だと思う?」
こうして判断力を育てていきます。
【ステージ3:手段を任せる】
十分に価値観を共有できたら、
目的だけ伝えて手段は完全に任せます。
「来月のリコール率を65%にしてほしい。
方法はあなたに任せるが、報告はこまめにすること」
このように段階を踏まずにいきなり任せると、
他のスタッフとの間に反発が生まれます。
「なんであの人だけ違うやり方をしているの?」
「私はそれを禁止された」という
不公平感が院内に広がってしまうのです。
でも、段階を踏んで権限を与えていけば、
不公平感が広がることはありません。
そして同時に院長が行うべきことが発生します。
スタッフの“反発・齟齬”を潰す
①目的と判断基準を“スタッフ全員で”共有
自由なのは手段であって、勝手なのはNGだと伝える。
”報連相”を怠らないように仕向ければ、
あなたがスタッフの自由度を更に上げる判断も
迷うことなく実行しやすくなるでしょう。
「手段の自由度が上がる」ということは
医院の価値観を理解した証でもあり、
その分だけ責任・義務、そして報酬が
増大することにつながっていると理解させましょう。
②評価項目を公平性を保って揃える
評価はやり方ではなく、
達成条件・成果(数字・患者の反応等)で見るべきです。
ただしその評価の全てを公開する必要はありません。
ただ、どのような項目で評価しているのか、
大まかにでも示しておくことで、
「評価を恣意的に行なっていない」ことを伝えましょう。
この2つの設計がないまま「任せる」だけすると、
歯科医院はほぼ必ず空中分解します。
逆に言えば、ここを押さえれば強いチームになれるのです。
医院の価値観の理解度と、任せる仕事の重要度・難易度により
権限委譲と評価のルールに則って「手段の自由度」が増した結果、
「あの人だけ違うやり方をしている」ように見えるだけ。
「目的」を医院の価値観で処理する姿勢は同じだ。
このことが自ずとわかってくれば、
スタッフが不平・不満をつのらせる可能性はグッと小さくなります。
そしてさらに、「手段の自由」が的を射た時の効果は絶大です。
その結果、個々のスタッフの能力を存分に活かした、
非常に効率的で強い組織が出来上がります。
あなたの歯科医院のスタッフは、
今どのステージにいるでしょうか?
まずは「目的」の言語化から
どんなに正確に進んでも、設定したゴールそのものが
そもそも間違っていれば、望む場所には辿り着きません。
歯科医院経営も同じです。
目的がスタッフその他に共有されていなければ、
あなたの歯科医院は望む方向に進まないのです。
今日お伝えしたことを整理しましょう。
目的と手段は別物。混同すると、行動が形骸化します。
明確に区別できれば、スタッフの創意工夫が医院の力になります。
ただし権限委譲、自由に任せるまでには段階が必要です。
では、あなたが今日からできることは何か。
スタッフに任せたい業務を1つだけ選び、
「目的・達成条件・禁止事項」を紙1枚で書く。
対象はリコール葉書でも、院内清掃でも何でも良いです。
たったこれだけです。
そして次回の終礼でも、ミーティングでも構いません。
その1つの業務について「何のためにするのか」を
スタッフと一緒に言語化してみてください。
「本当に達成したいことは何か?」
この2つの問いを、スタッフに投げかけてみるのです。
その対話こそが目的と手段を区別する第一歩です。
半年後、あなたの歯科医院には
自分で考え、工夫し、成果を出すスタッフが育っています。
院長であるあなたは細かい指示から解放され、
本来やるべき医院の方向性づくりに集中できるようになっています。
すべては「目的の言語化」から始まります。
まずは、1つの業務から始めてみませんか?
これができた瞬間から、
先生の歯科医院の“任せ方”は別物になります。
迷わず前に進んでください。









