台風の朝、あなたは何を考えましたか?
2026年6月2日から3日にかけて、日本列島を大型の台風が襲いました。
先生の歯科医院に被害はなかったでしょうか。
被害に遭われた先生方には、心よりお見舞い申し上げます。
一日も早い復旧を願ってやみません。
窓を打ちつける雨音、激しくしなる街路樹、
警報を伝えるテレビの緊迫した声。
そんな朝、院長のあなたは何を考えていたでしょうか。
「キャンセルの電話、何件入るだろう」
「スタッフは無事に出勤できるのか」
おそらく、こうした不安が頭をよぎったはずです。
ところで、雪や台風といった「予期せぬ悪天候」の日、
あなたの歯科医院では診療をどうしていますか。
歯科医院なりの取り決めはありますか。
それとも、その都度の臨機応変な対応にしているでしょうか。
現在、ほとんどの歯科医院は予約制です。
中には数ヶ月先まで予約が埋まっている医院も珍しくありません。
高い確率で大雨や強風などの悪天候が予測される時、
予約患者への対応準備はできているでしょうか。
実はこの判断こそ、院長としての経営感覚が
最も明確に表れる場面の一つなのです。
「予約があるから来てもらう」本当に正解?
予約が入っている。だから来てもらう。
これは一見、当然のことのように思えます。
しかし、悪天候が予測されている時にも
同じ判断でよいのでしょうか。
私自身がどうしていたかをまずはお話しします。
大型の台風や大雪が予測される日は、
「どうしても今日受診したい」という患者以外は、
こちらから全てキャンセルしていました。
別の日に予約を振り替えてもらっていたのです。
しかも、キャンセルの連絡は当日ではありません。
大型の台風や大雪なら3営業日前、
強風や激しい雷雨なら前日の朝には決断していました。
最近の天気予報は精度が高くなっています。
判断材料は十分に揃うのです。
結果として予報がはずれ、
それほど荒れなかったとしても
気にすることはありません。
なぜなら、診療しない方が
得られるものが大きいと考えていたからです。
「えっ、売上が減るのに?」
そう思った先生もおいでかもしれません。
ここで重要なのは、短期的な売上ではなく、
長期的な経営の視点での判断です。
悪天候は「不確定性」を押し上げる
考えてみてください。
大雨や大雪の日、患者は足下の悪い中を
歯科医院まで緊張と苦労の中、来院します。
もし、その道中で転倒して怪我でもされたら
どうなるでしょうか。
治療どころの話ではありません。
回復するまで、通院そのものを
中断せざるを得なくなるかもしれません。
それだけではありません。
悪天候の日は、患者の家族や家屋にも
予期せぬアクシデントが起きやすくなります。
- 子どもの学校が休校になり、送迎が必要になる
- 高齢の家族が体調を崩す
- 屋根や窓に被害が出て対応に追われる
こうした事態が一つでも起きれば、
予約のキャンセルは避けられません。
つまり、「予期せぬ悪天候」は
あらゆる不確定性を一気に押し上げるのです。
いつもと違う状況は、いつもと違う反応を引き起こします。
それでも患者にいつも通り来院することを期待するのは、
そもそも無理があるのではないでしょうか…?
優先すべきは「治療」…?
ここで、歯科医院経営の根本に立ち返ってみましょう。
歯科医師は訪問診療を除けば、ほとんどの場合、
患者に来院してもらわなければ診療はできません。
つまり、経営を成り立たせているのは
一回一回の治療そのものではなく、
「患者が継続して通院してくれること」なのです。
この順番を、もう一度確認してください。
最優先は通院の継続、診療はその次にあるのです。
ところが現場では、この順番が逆転しがちです。
「来院したのだから、やれる治療は全部やってしまおう」
そうしてチェアタイムを延ばし、
患者を疲れさせていないでしょうか?
これは結果として、患者に
「もう来たくない」と思わせる行為に等しいのです。
通院意欲を削ぐという意味では、
むしろマイナスかもしれません。
一度にたくさん治療しなくても、
患者が来院し続けてくれさえすれば、
必要な治療はいずれ全て行えます。
焦る必要はどこにもないのです。
だからこそ、悪天候の日に
たった一回の治療機会のために、
わざわざ患者を呼び寄せる必要はありません。
患者に「歯科医院への通院は大変だ」と
悪天候ごときで認識させてしまうことの方が、
長い目で見れば大きな損失になりかねないのです。
通院のハードルはできるだけ下げる。
あなたの歯科医院に通うことを、
生活のごく一部、特別ではない習慣として
認識してもらうことの方がずっと大切です。
通院を「特別なこと」にすればするほど、
中断のリスクは高まります。
診療することに、意識が行き過ぎていませんか?
スタッフへの配慮も同じ視点で
この考え方は、患者だけに当てはまるものではありません。
スタッフに対しても全く同じです。
私は悪天候の日、スタッフにも無理をさせませんでした。
予約患者を全員振り替えられたなら休診にし、
数人しか残らない場合も
スタッフがいなくても困らない体制にしていました。
休んでもらったスタッフは
有給扱いにはしませんが、ノーペナルティ。
日給、時給は無しですが、月給にマイナスはつけません。
それでも出勤してくれたスタッフには、
背負ってくれたリスクへの感謝として
食事代+α程度をポケットマネーから渡していました。
なぜなら、スタッフが長く勤務し続けてくれることこそが、
院長にも歯科医院にも、
様々な恩恵をもたらすと考えているからです。
つまらないことで無理をさせて
辞められてしまっては、
採用と教育のコストが何倍にもなって跳ね返ってきます。
患者の通院継続も、スタッフの定着も、
根っこは同じなのです。
今日から始めるアクションプラン
悪天候時の判断は、院長としての
経営哲学が問われる場面です。
目先の売上を取るか、患者の通院継続を守るか…
一回の治療を優先するか、長期的な関係を優先するか…
答えはもう、見えているはずです。
そこで、今日からできる小さな一歩をご提案します。
「悪天候時のキャンセル基準」を
紙に書き出してみてください。
悪天候対応:決めておくべき3つの基準
悪天候対応で必要なのは、その場の気合いではありません。
先に決めておくことです。
基準は多すぎると運用できません。
まずは3つで十分です。
1. いつ判断するかを決める
大型の台風や大雪のように、高確率で影響が
読めるものは3営業日前を一つの目安にします。
強風や激しい雷雨のように、直前まで
変動しやすいものは前日の朝までに一次判断を置く。
ここを曖昧にすると、患者連絡もスタッフ判断も遅れます。
2. 誰に、どう連絡するかを決める
悪天候時は、患者に判断を丸投げしないことです。
歯科医院側から連絡し、予約変更の選択肢を明確に提示する。
予約変更を促すと決定したなら、
穏便に変更してもらえるよう
トークスクリプトまで用意できればベスト。
とらえず作って運用しながら改良改善すれば良いでしょう。
悪天候の中、喜び勇んで来院する患者はごく稀です。
医院からのキャンセル依頼は、かえって患者は安心します。
結果として、関係性も守りやすくなります。
3. 無理をさせないスタッフマネジメント
患者の安全を気にするのに、スタッフは通常出勤…
これでは価値観の一貫性がありません。
予約変更が進んだなら休診にする。
少人数で回せるなら縮小運営にする。
この判断が、スタッフの定着率にも響きます。
- 警報級予報が出た時点で、対象日の予約一覧を確認する
- 高齢者、小児連れ、遠方通院の患者から優先して変更提案する
- 再予約候補をその場で2〜3案示す
- スタッフには出勤可否の確認時刻を前日までに共有する
こうしておくと、受付が迷いません。
スタッフ間の認識も揃います。
院長だけが抱え込む状態も防げます。
診療枠を埋める発想から、通院継続を守る発想へ。
この価値観の切替ができると、
患者対応もスタッフ管理もぶれにくくなります。
まずは、院長の頭の中にある判断基準を
言葉にしてみてください。
- 何日前に判断するのか
- どんな気象条件で振り替えるのか
- スタッフへの連絡方法は
これを言語化しておくだけで、
次の悪天候の朝、あなたは迷わず動けます。
スタッフも安心して指示に従えます。
患者の通院を守ることが、
あなたの歯科医院を守ることに直結する。
この視点を、ぜひ保持し続けてください。









