なぜ、あなたの思いはスタッフに届かないのか?
日々の診療、本当にお疲れ様です。
忙しい診療の合間を縫って、
ようやく自分の作業に集中できると思った矢先、
あなたはスタッフからこんな声をかけられるていませんか?
「〇〇の件、どうしたらいいですか?」
以前にも教えたはずのことや、
少し考えれば分かりそうなことまで、
いちいち判断を仰がれる。
「どうして自分で考えて動いてくれないんだ…」
そんな風に感じたことは、
一度や二度ではないはずです。
こちらの意図がうまく伝わらず、
指示待ちの状態になっているスタッフ…
自発的に動こうとしない、その姿勢…
院長であるあなたの貴重な時間が奪われ、精神的にも疲弊し、
本来集中すべき診療や経営判断に、悪影響が出ていませんか?
しかし、ここで少しだけ立ち止まって、
じっくり考えてみてほしいのです。
その問題、本当にスタッフのせいなのでしょうか?
彼女たちの行動がどこか曖昧 で、
あなたの理想からズレているのだとしたら…
それは、あなたから彼女たちへのメッセージが、
そもそも曖昧だからなのかもしれません。
なぜあなたの思いがスタッフに届かないのか、
今回の記事では、その根本的な原因と、
今日から変えられる具体的な一歩についてお話しします。
すべての根源は、院長の”OS”にある
なぜ、スタッフは指示待ちになってしまうのか。
なぜ、些細なことまで判断を求めてくるのか。
その答えを探る前に、
少しだけあなたの歯科医院のパソコンを、
イメージしてみてください。
どんなに高性能な最新のパソコンでも、
OS(オペレーティングシステム)が古かったり、
不安定だったりしたらどうなるでしょうか?
WordやExcelといったアプリケーションソフトは、
頻繁にフリーズしたり、性能を発揮できなかったりしますよね。
実は、これ、
歯科医院の組織にも全く同じことが言えるのです。
スタッフを動かすためのマニュアルやルールは、
いわば「アプリケーションソフト」です。
そして、そのアプリケーションを動かす根幹、
それが院長であるあなたの考え方や価値観、
つまり「院長のOS」なのです。
多くの院長先生は、
スタッフの行動に問題を感じると、
「もっと細かく指示を出そう」
といった「アプリ」の修正にばかり目が行きがちです。
しかし、考えてみてください。
「彼女たちにどんな役割を期待しているか」
「院長として、スタッフにどんなサポートをするか」
これらの問いに対して、
あなたは明確な言葉で、
即答することができるでしょうか?
もし答えが曖昧なら、
それはあなたの歯科医院の「OS」が、
明確に定まっていない証拠です。
OSが曖昧な状態では、
いくら高性能なアプリ(マニュアル)を導入しても、
スタッフは混乱するばかりですよね。
「今回はAパターンでいいのかな? 前はBだった気もするけど…」
判断基準が分からなければ、
自分の頭で考えて行動することに、恐怖すら感じてしまいます。
結果として、彼女たちは思考を停止させ、
最も安全な選択肢である「院長への確認」を、
繰り返すことになるのです。
あなたの「OS」、つまり歯科医院の進むべき方向性や哲学が、
彼女たちにインストールされていないからに他ならないのです。
そもそも論になりますが、このOSの根幹をなすのは、
院長であるあなた自身の在り方です。
あなたは、どんな歯科医院を創りたいのか?
あなたは、どんな価値観を持って日々の診療に向き合っているのか?
これらの哲学が胸の内にあるだけではダメなのです。
明確に言語化し、スタッフに何度も繰り返し伝え、
彼女たちの腹の底に落ちるまで共有する。
このプロセスを抜きにして、
スタッフの自律性や積極性を求めるのは、
OSが起動していないパソコンに、
「早く計算しろ!」と怒鳴っているようなもの。
あなたの哲学とスタッフの行動が、
どうにもミスマッチを起こしてしまうのは、
ごく自然なことだと言えるでしょう。
羅針盤なき航海を終わらせる「3つの問い」
院長のOSをアップデートする、と言うと、
何やら難しく聞こえるかもしれませんね。
しかし、やるべきことは非常にシンプルです。
それは、あなたの歯科医院という船の進むべき方向を示す、
「羅針盤」を手に入れること。
あなたの船がどこへ向かうのか、目的地が明確でなければ、
乗組員であるスタッフは不安で仕方ありません。
それではスタッフが「とりあえず目の前の波を乗りこなそう」
という短期的な視点に陥ってしまうのも当然です。
では、どうすれば、
その羅針盤を手に入れることができるのか?
まずは、院長であるあなたが、たった一人の静かな時間を作り、
以下の「3つの問い」に真剣に向き合ってみてください。
1. どんな歯科医師でありたいか?(在り方)
「地域一番のインプラント専門医」なのか?
「子どもたちの笑顔を守る予防の伝道師」なのか?
「生涯、患者の口腔の健康に寄り添うパートナー」なのか?
技術的なことだけでなく、一人の人間として、歯科医師として、
どんな存在でありたいのかを考えてみてください。
2. どんな歯科医院にしたいか?(目的地)
「最新設備が揃い、高度な自由診療を提供する歯科医院」
「まるでカフェのようにリラックスでき、通うのが楽しくなる歯科医院」
「スタッフ全員が誇りを持ち、活き活きと働ける歯科医院」
これは、あなたの歯科医院が目指す最終的なゴールです。
5年後、10年後、どんな景色を見ていたいですか?
3. どんな価値観で診療に向き合うか?(行動指針)
「常に患者の期待を超える感動を提供する」
「効率よりも、一人ひとりとの対話を何よりも大切にする」
「できない理由を探すより、どうすればできるかを考える」
これは、目的地へ向かう航海のルールであり、
日々の診療における判断基準となるものです。
「私たちの歯科医院では、こういう時、こう考える」
というブレない軸を定めてください。
いかがでしょうか。
これらの問いに、スラスラと答えられましたか?
重要なのは、これらの答えを頭の中に留めておくだけでなく、
明確な「言葉」として書き出すことです。
そして、その言葉を、あなたのOSとして、
スタッフというアプリケーションに、
正しくインストールしていく作業が必要になります。
スタッフへのインストール
では、どうやってインストールするのか?
それは、「繰り返し、伝え続けること」です。
それ以外に方法はありません。
朝礼で、週替わりに価値観について話す
「今週は『患者の期待を超える』を意識しよう。
例えば、予約の電話があった時に、
ただ時間を伝えるだけでなく、
何か不安なことはないか一言添えてみよう」
ミーティングで、ビジョンと現状のギャップを話し合う
「私たちの目的地は『通うのが楽しくなる歯科医院』だ。
今の待合室を見て、みんなはどう思う?
もっと楽しくなるために、何かアイデアはないかな?」
面談で、個人の目標と歯科医院のビジョンをすり合わせる
「あなた(スタッフ)が目指す姿と、
歯科医院が目指す方向性はここが重なっている。
この部分で力を発揮してくれると、すごく助かるんだ」
最初は、スタッフも戸惑うかもしれません。
「また院長が何か言ってる」くらいにしか思わないでしょう。
しかし、あなたがブレずに、一貫したメッセージを、
あらゆる場面で、情熱を持って語り続けることで、
その言葉は次第にスタッフの中に浸透していきます。
羅針盤が共有されれば、スタッフはもう道に迷いません。
院長がいちいち指示を出さなくても、
「私たちの船はこちらに進むべきだ」と、
自らの頭で考え、判断し、行動できるようになるのです。
羅針盤なき航海は、今日で終わりにしましょう。
そしてまずは「たった一つの言葉」から始めましょう。
ここまで、あなたの思いがスタッフに届かない根本原因が、
院長自身のOS、つまりビジョンや哲学の不在にあること。
そして、それを解決するためには、
「3つの問い」を通じて羅針盤を明確にし、スタッフと
共有し続ける必要があることをお伝えしてきました。
「なるほど、理屈は分かった」
「でも、明日からいきなり壮大なビジョンを語るのは、
なんだか気恥ずかしいし、難しそうだ…」
もし先生がそう感じているのなら、
まったく心配する必要はありません。
最初から完璧な文章である必要はないのです。
壮大な理念を掲げる必要もありません。
まずは、たった一つでいい。あなたの歯科医院の核となる、
「たった一つの言葉」を見つけることから始めてみませんか?
例えば…
「先生の歯科医院は、一言で言うとどんな場所ですか?」
この問いに、あなたなら何と答えますか?
どんな言葉でも構いません。
綺麗に飾る必要もありません。
あなたが、心の底から「これだ」と思える言葉。
それこそが、あなたのOSの核であり、
羅針盤の中心に輝く北極星となるのです。
その「たった一つの言葉」を、
まずは明日からの朝礼で、
スタッフに伝えてみてください。
「私がこの歯科医院で一番大切にしたいのは、
患者さんが心から『安心』できることなんだ」
その一言が、すべての始まりです。その一言が、
曖昧だったスタッフの行動に、明確な基準を与えます。
その言葉が、バラバラだったチームの心を、
一つに繋ぎ合わせるきっかけになるのです。
**いつだって、小さな一歩から始まります。**
あなたの歯科医院には、
まだまだ無限の可能性が眠っている。
私は、そう確信しています。