引き起こされる経営の衰退
先生は日々の診療で、
こんな風に感じたことはありませんか?
渾身のプレゼンテーションで、
インプラント治療の素晴らしさを丁寧に説明したはずなのに、
患者から返ってきたのは「少し考えてみます」の一言。
そして、二度と戻ってこない。
スタッフミーティングで、
「もっと主体的に動いてほしい」と熱意を込めて伝えたのに、
翌日から何も変わらない。
むしろ、指示待ちの姿勢が強まった気さえする。
「なんで伝わらないんだ…」
この、じりじりと心を削るような徒労感。
優秀な歯科医師である先生ほど、
深く悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。
多くの院長は、こうしたすれ違いを
「仕方のないこと」だと片付けてしまいがちです。
しかし、断言します。
それは大きな間違いです。
その小さな「伝わらない」の積み重ねこそが、
先生の歯科医院の成長を阻む、
最も根深い病巣なのです。
なぜなら、自由診療の成約率が上がらないのも、
リコール率が伸び悩むのも、
スタッフが定着しないのも、
突き詰めれば、すべてこの問題に行き着くからです
あなたが発した大切な言葉が、
その価値を失い、誰にも届かずに霧散している。
これは、歯科医院経営における静かな崩壊の始まり
と言っても、決して大袈裟ではありません。
「自分はちゃんと伝えている」
そう思うかもしれません。
ですが、もしそうなら、
なぜ目の前の患者やスタッフの行動は
その言葉を受けて変わらないのでしょうか?
実は、問題の根源は、
相手の理解力や意欲にあるのではありません。
原因は、私たち自身が持つ、
「言葉は、言えば正確に伝わるはずだ」
という、無意識の“勘違い”にあります。
この記事では、なぜあなたの言葉が伝わらないのか、
その構造的な原因を解き明かし、
「すれ違い」を「盤石な信頼」へ転換するための、
具体的な技術をお伝えします。
あなたの言葉が“すれ違う”3つの壁
先生が発した言葉が、
なぜ患者やスタッフに正確に伝わらないのか。
それは、先生と相手の間に、
目には見えない「3つの壁」が立ちはだかっているからです。
人は誰しも、自分だけの知識、価値観、立場という
色眼鏡を通して世界を見ています。
言葉を伝える側と受け取る側が、
まったく同じ色眼鏡をかけていない限り、
情報は必ずどこかで歪んでしまうのです。
先生の歯科医院で起きている「すれ違い」が、
どの壁によって引き起こされているのか。
ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
第一の壁:「知識」の壁
これは、歯科医師である先生と、
そうでない患者やスタッフとの間に存在する、
圧倒的な知識量の差によって生まれる壁です。
多くの先生にとって、「専門用語」は
知識を裏付けとして、きちんと定義された
むしろ正確に伝えるためのツールです。
患者に対して「専門用語を使わないことは常識でも、
ただ言い回しを簡単で一般的な言葉に置き換えれば
患者にも真意が伝わると無意識で思い込んでいます。
たとえば、「歯根膜」を「歯と顎の骨を繋いでいる組織」と
言い換えたところで、その機能や存在意義などまで
すぐに思い浮かぶことなどありません。
何気なく使ったとしても先生の頭には、
歯根膜の構造が鮮明に浮かんでいますよね。
しかし、患者の頭の中では、
言葉以上のことは全く思い浮かびませんし、
言葉通りに理解できていただけでも
希少で超優良な患者に分類させるはずです。
この壁の恐ろしいところは、
伝える側が壁の存在に気づいていないことです。
「これくらいは分かるだろう」という無意識の思い込みが、
相手の思考を停止させ、心を閉ざさせてしまいます。
第二の壁:「価値観」の壁
これは、何に重きを置くか、
優先順位の違いによって生まれる壁です。
特に、自由診療のカウンセリングで顕著に現れます。
先生は、歯科医師として、
「機能性」「審美性」「長期的な安定」といった、
“最善の治療”を提供することに最も高い価値を置いています。
しかし、患者が同じ価値観を持っているとは限りません。
ある患者は「費用を抑えたい」かもしれませんし、
別の患者は「早く終わらせたい」と考えているかもしれません。
「痛みが怖い」という感情が、最優先事項である患者もいます。
先生が情熱を込めてセラミックの美しさを語っても、
患者の頭の中が「支払いはどうしよう…」でいっぱいであれば、
その言葉はまったく響かないのです。
相手が何を大切にしているのかを理解せず、
自分の価値観だけで話を進めてしまうと、
それは「良い提案」ではなく、
単なる「自分本位な押し付け」と受け取られてしまいます。
第三の壁:「立場」の壁
これは、それぞれの役割や責任の違いから生まれる壁です。
主にスタッフとのコミュニケーションで問題となります。
経営者である院長は、常に歯科医院全体の未来を考え、
売上や利益といった数字に責任を負っています。
「患者一人ひとりの満足度が、歯科医院の存続に直結する」
という危機感を肌で感じています。
だからこそ、「もっと患者に寄り添ってほしい」と伝えます。
しかし、雇用されているスタッフの立場は異なります。
彼らにとっての最優先事項は、
「今日の業務を時間内に終わらせること」かもしれません。
もちろん、彼女たちもプロ意識を持っています。
しかし、先生と同じレベルの経営者視点や危機感を
共有することは極めて困難です。
先生にとっての「歯科医院の未来のための重要な指示」が、
スタッフにとっては「いつもの業務を増やす面倒な要求」
としか聞こえていない可能性があるのです。
この「立場」の壁を無視して要求を続けると、
スタッフは心をすり減らし、
「院長は分かってくれない」という不満が募り、
やがて離職へと繋がっていきます。
“すれ違い”を“信頼”に変える
3つの壁の存在を理解するだけでも、
先生の視点は大きく変わったはずです。
しかし、原因を理解するだけでは、
明日からの診療は何も変わりません。
壁を打ち破るための具体的な「技術」を身につけましょう。
対患者:「知識の壁」「価値観の壁」対策
患者との間にある2つの壁を同時に崩す鍵は、
「翻訳」と「傾聴」です。
まず、先生が持つ専門知識を、
患者が望む未来の言葉へ「翻訳」するのです。
たとえば、インプラントを勧める際に、
「チタン製の人工歯根を…」と
技術的な説明から入ってはいけません。
そうではなく、
「〇〇さん、もしこの治療を受けたら、
半年後には、我慢しているおせんべいを、
思いっきり食べられるようになりますよ。
食事も、もっと楽しくなりますね」
このように治療法ではなく、治療によって実現する
“明るい未来の物語”をプレゼントする感覚です。
そして、そのためには徹底した「傾聴」が不可欠です。
先生が話す前に、まず患者に話してもらう。
「治療が終わったら、何がしたいですか?」
こうした質問を通じて、
相手が何を大切にし(価値観の壁)、
何を理解していないのか(知識の壁)を
正確に把握するのです。
カウンセリングはプレゼンの場ではなく、
患者の想いを深く理解するための問診の場なのです。
対スタッフ:「立場の壁」対策
スタッフとの間にある「立場の壁」を乗り越える鍵は、
「目的の共有」です。
多くの院長は「指示」はしますが、
その指示の背景にある「目的」を共有していません。
作業指示(What)だけでなく、
「なぜ(Why)それが必要なのか」を丁寧に伝えるのです。
たとえば、
「受付のディスプレイをもっと綺麗にして」と指示する代わりに、
こう伝えてみてください。
受付を綺麗にして、少しでも
リラックスできる空間を作ってあげたいんだ。
それが、私たちの提供する医療の第一歩だから。
そのために、どうすればもっと良くなるか、
一緒に考えてくれないかな?」
このように、作業の目的と、
それが歯科医院の理念にどう繋がるかを伝えることで、
スタッフは単なる「作業者」から、
理念を共有する「パートナー」へと意識が変わります。
「やらされ仕事」が「自分たちの仕事」になった時、
スタッフは驚くほどの主体性を発揮し始めます。
先生が何も言わなくても、
自ら考えて行動する組織が生まれるのです。
口癖を一つだけ変える?
ここまで、「3つの壁」を乗り越えるための
「翻訳」「傾聴」「目的の共有」
という技術をお伝えしました。
しかし、一度にすべてを実践する必要はありません。
そこで、先生にたった一つ、
この瞬間から始めてほしいことがあります。
それは、「伝えた」という思考を、
「伝わっただろうか?」という問いかけに変えることです。
「インプラントのメリットは伝えた」ではなく、
「患者は、その価値を理解できただろうか?」と考える。
「主体的に動けと伝えた」ではなく、
「なぜそれが必要か、目的は伝わっただろうか?」と自問する。
言葉を発した瞬間をゴールにするのではなく、
相手の心に届き、行動が変わった瞬間をゴールに設定するのです。
この主語を「自分」から「相手」へ切り替える意識改革が、
先生の歯科医院を劇的に変える最初の一歩になります。
あなたの言葉の価値を、「伝えたつもり」で終わらせないでください。
まずは心の中の口癖を変えることから、始めてみませんか。









