経営者の心構えとは

個人歯科から中規模医院へ|国が動かす流れと共同経営という選択肢

海外では当たり前、日本では茨の道?

少し前のことになりますが、
中高時代の友人と久しぶりに連絡をとりました。
彼は今、米国でクリニックを共同経営しています。

 

話を聞いてみると、向こうでは複数の医師が
ひとつのクリニックを共同で運営するのは、ごく当たり前のこと。
「なぜ一人でやらなければいけないの?」
という感覚すらあるようです。

 

リスクを分散し、得意分野を持ち寄り、初期投資の負担を軽くする。
考え方としては、確かに理にかなっています。

 

では、日本の歯科医院ではどうでしょうか。
共同経営は、同じように「当たり前」になり得るのでしょうか。

 

結論から言えば、現時点では、かなり危ういと私は見ています。
「覚悟があれば大丈夫」では済まない、
構造上の問題が日本の歯科医院経営には存在するからです。

 

私はこれまで200以上の歯科医院のコンサルティングに携わり、
共同経営をめぐるトラブルも、相当数、見てきました。
今回は、その構造的なリスクを整理しながら、
「今後の可能性」についても率直にお伝えします。

開設管理者は1人

日本で歯科医院を開設するには、
必ず「開設管理者」を1名定めなければなりません。
これは医療法上の規制であり、例外はありません。

 

先生もご存知の通り、共同経営である以上、
経営者は全員が対等であるべきはずです。

 

しかし制度上、管理者になれるのは1人だけ。
ここに、根本的な矛盾が生まれます。

 

対等なはずが、対等でない

管理者に選ばれた側は、
医院の運営に関するあらゆる最終責任を負います。

 

スタッフの労務管理、行政への届出、
衛生管理から診療方針の決定まで。
対外的には「この歯科医院の責任者」として名前が出ます。

 

一方、管理者でない共同経営者は
どういう立場になるのでしょうか?

 

出資はしている。売上も分配される。しかし、
制度上は「雇われている側」に近い立場
なってしまうのです。

 

実態として経営者であっても、
制度上は非対称な関係が生まれる。
これが日本の共同経営歯科医院が抱える、
構造上の最大の問題です。

 

兄弟でも、親子でも、
この非対称さが関係をじわじわと蝕みます。

 

まして、全くの第三者と一緒に経営するとなれば…
「覚悟」だけでは到底カバーできない領域
踏み込まざるを得ないことになります。

 

「最初からお互いの役割を決めておけばいいのでは?」

 

そう思う先生もいるかもしれません。
もちろん、それは重要なことです。
しかし、問題はそれだけでは解決しません。

 

役割分担や契約内容よりも深いところ、
つまり「感情」の領域で、
共同経営の危うさは姿を現します。

不満は静かに、しかし確実に積み重なる

管理者でない共同経営者の立場に立って、
少し想像してみてください。

 

同じだけのリスクを負い、同じだけ働いている。
それなのに、最終的な決定権は相手にある。

 

自分の意見が通らない場面が続く。
報酬の配分に納得できない日が来る。

 

最初は「お互い様だから」と飲み込めていたことが、
半年、1年と経つうちにじわじわと不満へと変わっていきます。

 

どんな契約書も、人の心は縛れない

やがて、こんな感情が頭をもたげてきます。

 

「なぜ、自分がこんなことを指示されなければいけないのか。」
「なぜ、自分の提案がいつも後回しにされるのか。」
「なぜ、同じ経営者なのに報酬に差があるのか。」

 

これは、性格や相性の問題ではありません。
構造が、この感情を生み出しているのです。

 

どれだけ信頼関係があっても、
制度上の非対称さが続く限り、この感情は消えません。

 

そして関係が破綻し、共同経営者が「辞める」と告げる…
どれだけ綿密に作った契約書であっても、
その意思を法的に拘束することはできません。

 

歯科医師は国家資格を持つ独立した専門職です。
「辞める」という意思を持った人間を、
契約書一枚で引き留めることは、
現実には不可能なのです。

 

共同経営の解消は、
単なる「人間関係のトラブル」では済みません。

 

患者への影響、スタッフの動揺、
そして経営そのものへのダメージ…
その代償は、想像以上に大きなものになります。

国が目指す方向と、今後の可能性

ここまで、共同経営のリスクをお伝えしてきました。
しかし、話はここで終わりません。

 

実は、国の政策的な方向性として
「歯科医師1人の個人経営から、
複数の歯科医師が在籍する中規模医院へ」

というシフトが明確に打ち出されています。

 

少子高齢化、歯科医師過剰問題、
医療の効率化と質の担保、ライフワークバランス…

 

これらの課題に対応するために、
国は歯科医院の「規模の拡大」を促す方向で動いています。

 

アンテナを張る価値がある理由

現時点では、共同経営を支える制度的な整備は
十分とは言えません。

 

しかし今後、制度改正や優遇措置が整えば、
共同経営の安定性と経営的メリット
大きく変わる可能性があります。

 

特に、これから開業を考えている先生。
あるいは、医院の縮小・継承・閉院を視野に入れている先生。

 

共同経営という選択肢が、
将来の有力な経営戦略のひとつになる日は、
そう遠くないかもしれません

 

「今すぐ動く必要はない。
でも、知らないままでいるのはリスクだ。」

 

そういう認識を持っておくだけで、
先生の選択肢は確実に広がります。

H共同経営を検討する前に整理すべき3点

では、共同経営を将来の選択肢として考えるなら、
今から何を準備しておくべきでしょうか。
最低限、以下の3つは整理しておくことをお勧めします。

 

① 経営方針の一致を確認する

診療コンセプト、自由診療への比重、スタッフ採用の基準…

 

こういった「経営の根幹」となる価値観が一致しているかどうか。
ここがズレていると、日常の意思決定のたびに摩擦が生まれます。

 

② 役割と報酬の設計を事前に明文化する

「お互い信頼しているから」で済ませると、必ず問題になります。

 

管理者と非管理者の役割分担、報酬配分の基準を、
開始前に文書化しておくことが最低条件です。

 

③ 解消時のルールを先に決めておく

共同経営で最も見落とされがちなのが、
「解消するときのルール」です。

 

どちらかが離脱する場合の患者・スタッフ・資産の扱いを、
感情が入る前の冷静な段階で取り決めておくことが、
リスクを最小化する唯一の方法です。

 

これらは共同経営の「成功保証」ではありません。
しかし、準備のない共同経営は、
準備のある共同経営より確実にリスクが高い。

それだけは断言できます。

今、あなたが準備できること

共同経営は、否定すべき選択肢ではありません。
しかし現時点では、
リスクを正しく理解した上で判断すべき選択肢
であることは確かです。

 

構造上の非対称さが生む感情的な摩擦。
契約書では縛れない人の意思。
そして、解消時に生じる経営へのダメージ。

 

これらは、覚悟や信頼関係だけでは
防ぎきれないリスクです。

 

一方で、国の政策的な方向性は変わりつつあります。
制度が整えば、共同経営は有力な経営戦略になり得ます。

 

今、先生にできることはひとつです。
「正しく知って、正しく備える」こと。

 

まず今日から、
歯科医院の共同経営に関する制度動向を
定期的にチェックする習慣をつけてみてください。

 

厚生労働省の審議会資料や、
日本歯科医師会の発表などが参考になります。

 

情報を持っている人間だけが、
変化をチャンスに変えられます。

 

アンテナを張り続けることが、
今できる最善の一手です。

 

※本記事は医療広告ガイドラインおよび
関連法規の遵守を前提としています。

 


 

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代表取締役  近  義武

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