Last Updated on 2025.3.14 by 近 義武
先日知った、ある歯科医院での事例が私の心に強く残っています。
開業10年目のその歯科医院は、月の新患がわずか5名。
しかしその8割が既存患者からの紹介で、自費率も地域平均の3倍以上でした。
「患者さんが患者さんを連れてくる…」
私は改めて紹介患者獲得の本質について考えさせられました。
この状況を構築するのに、巷で言われるような
「紹介した方にも、紹介された方にも特典を…」みたいなやり方では
ほぼ不可能だからです。
「紹介してくれたら〇〇をプレゼント」といった外発的動機づけによる施策は、
一時的な効果は見込めても、他院との利益供与競争が待っています。
必然的に、真の紹介患者獲得戦略は「内発的動機づけ」の創出にあるとわかります。
内発的動機づけとは、歯科のことで言うなら口腔内の健康回復・健康維持に
自発的に取り組もうとする気持ちを持たせることです。
「自分の口腔内の課題解決に自律的に取り組む患者」となってくれたなら、
そういう方こそが、かかりつけ患者として、一生通ってくれるのです。
当然、そんな意識の高い患者に紹介されて来院する方々も、同様の価値観を持っています。
患者が自然と紹介したくなる「医院の強み」の発見と強化
他の患者さんに医院を紹介してもらうためには、
「他の歯科医院にはない独自の価値」を創り上げる必要があります。
多くの歯科医院において、院長やスタッフが考える自医院の強みと、
実際に患者が感じている魅力には大きなギャップが存在します。
お宝が見つかる?〜患者視点の強み発掘法〜
私がコンサルティングで最初に行うのが
「患者さんが感じている当該医院の魅力」の発掘作業です。
驚くべきことに、院長先生やスタッフが当たり前だと思っていることが
実は患者さんにとって大きな価値を持っていたりします。
この「お宝」を見つけるために、信頼関係のある患者さんに直接、
「周りにも歯科医院がたくさんあるのに、どうして当院に
通い続けてくださっているのですか?」と尋ねてみましょう。
最初は「家から近くて便利だから」といった表面的な回答が返ってきます。
しかし、諦めずに「それ以外に何か理由はありますか?」と掘り下げていくと
患者さんが感じている「居心地の良さ」を表す言葉が出てきます。
ある関西の歯科医院では、この方法で3つの強みを発見しました。
”痛みへの配慮”、”治療の選択肢を丁寧に説明する姿勢”、”予防に対する熱心な取り組み”です。
これらを意識的に強化した結果、半年で紹介率が12%から32%へと飛躍的に向上したのです。
患者心理を理解した紹介システムの構築法
紹介システムの本質は、患者さんの「誰かに教えたい」という
自然な感情が生まれるタイミングを見極め、
その感情を行動に変換する仕組みを整えることにあります。
紹介意欲が高まる心理的瞬間
患者が紹介したいと感じる「心理的瞬間」は以下の通りです。
1. 問題解決を実感した!
長年悩んでいた症状が改善した瞬間、患者さんは強い感動と安堵を感じます。
2. 予想を超える体験をした!
「こんなに丁寧に説明してくれるとは思わなかった」など、
予想を上回る体験は共有したい気持ちを生み出します。
3. 自己決定を尊重された!
「押し付けではなく、自分で選択できた」という体験は、
患者に主体性と尊重されている感覚をもたらします。
これらの瞬間を意識的に創出し、
そのタイミングで自然な紹介の流れを作ることが重要です。
内発的動機を引き出す
紹介を促す際には、押し付けではなく自然な流れを作ると良いでしょう。
1.会話の中での自然な問いかけ
「今回はこのような治療方法でうまく解決できましたが、
同じようなお悩みをお持ちのご家族やお知り合いはいらっしゃいませんか?」
2.患者の成功体験の共有
「〇〇さん(のお口の状態)がこんなに改善したのは、
〇〇さんの努力の成果です。この経験は他の方にもきっと役立つと思いますよ」
1と2のどちらの声かけも、患者の利他的な気持ちに訴えかけ、内発的な紹介意欲を高めます。
紹介患者を定着させる体制の整備
紹介患者獲得に成功しても、その患者が継続して通院しなければ真の成果とは言えません。
紹介患者には通常の新患とは異なる特性があるので注意が必要です。
彼らは紹介者からの情報をもとに、ある程度の期待値を持って来院しています。
その期待値を上回る体制を委員側で整備しなくては、定着が危ぶまれます。
紹介患者定着のための重要ポイントをピックアップします。
紹介情報の事前把握と活用
紹介患者が予約を入れた時点で、誰からの紹介かを確認し、カルテに記録します。
「〇〇様からのご紹介ですね。〇〇様とはどのようなご関係ですか?」と尋ね、
その情報をもとに初診時の対応を調整します。
初診時の特別な配慮
初診時には、通常の新患以上に丁寧な対応が求められます。
紹介者への感謝の表明
「〇〇さんからご紹介、ご来院ありがとうございます」
「〇〇さんは当院の大切な患者さんで、いつも良くしていただいております」
期待値の適切な調整
紹介者から聞いた内容を確認し、必要に応じて補足説明を行います。
ある歯科医院では、紹介患者には院長自らが待合室に出向いて挨拶すると決めています。
この小さな配慮が「特別に大切にされている」という印象を与え、継続率を15%向上させました。
診療後のフォローアップ強化
初診後のフォローアップは、紹介患者の定着に特に重要です。
初診後の確認連絡
初診から1〜2日後に電話やメールで「お変わりないですか?」と
一言確認するだけで、継続率が大きく向上します。
遠方からの来院への配慮
交通手段のアドバイスやアクシデントの際の留意点の説明。
近隣からの患者とは別の気遣いを見せることが重要です。
紹介倍増へのアクションプラン
まずは現状分析と目標設定をしましょう。
過去6ヶ月間の紹介患者数とその割合を算出し、
紹介元患者をリストアップ、特徴(年齢、治療、通院期間など)を分析します。
3ヶ月後の具体的な数値目標をとりあえずでも設定します。
改善を重ねていくのですから、小さな目標でも全く問題ありません。
従って達成の努力は最大限するべきですが、達成に固執しないでください。
次に医院の強みの発掘と明確化をしましょう。
V.I.P的患者や理想的な患者、10名以上へのインタビュー実施します。
発見した強みを3つ程度にまとめ、具体的な行動レベルに落とし込んでください。
また、受付に「当院を選んだ理由をお聞かせください」という
簡単なアンケート用紙を設置し、新患には必ず記入してもらいましょう。
そして、「患者の紹介意欲が高まる瞬間」を
診療プロセスの各段階で1つ1つ探し出していきましょう。
それぞれの瞬間での適切な声かけフレーズの作成を進めていきます。
紹介患者受け入れ体制の整備も始めていきましょう。
紹介患者受付マニュアルや、初診時のフォローアップ手順を定めると
行動が属人化することを防げます。
紹介患者獲得は一朝一夕に実現するものではありませんが、
計画的なアプローチと継続的な改善によって、必ず成果を上げられます。
紹介状況を週1回の短時間ミーティングで共有し、
月1回の詳細分析ミーティングで改善点を洗い出すなどの
PDCAサイクルの確立によって、小さな進化を止めないことが大切です。