先日、ある時計店に立ち寄った際の話です。
店内には様々な腕時計が並んでいて、
その一角ではショーケースを挟んで、
販売員が目の前のお客に説明をしていました。
「へぇ〜」と感心したのは、販売員が
「この時計の精度は…」「この機能は…」
と説明するのではなかったことです。
彼は、「この時計をつけると、どんな自分になれるか」
「周囲からどう見られるか」という
未来の「お客さんの姿」を語っていたのです。
最終的にそのお客は、時計の機能や性能よりも、
その「物語」や「なりたい自分」に
魅力を感じて、購入を決断していました。
「自分の歯科医院でも同じことが…」と思った方は
なかなか鋭いです。
実際に高頻度で起きていると言えるでしょう。
多くの院長先生は「より良い治療法」や「最新の設備」を
患者にアピール、提案するものの、自由診療の受入れが進まない…
という悩みを抱えています。
なぜでしょうか?
それは患者が表面的に求めるものと、
本当に求めるものの間に、」大きな隔たりがあるからです。
人は誰でも、自分が快適だと感じる世界観を持っており、
対価を支払うならその世界観に合致する商品・サービスに!
と、無意識のうちに考えています。
たとえば、患者の口から語られる「きれいな歯になりたい」は
ほぼ”審美治療を検討する患者の表面的なニーズ”です。
しかし、その奥にある本当の望み(インサイト)は
「自信を持って笑えるようになりたい」
「大切な人との会話を楽しみたい」
「見た目の若さを保ちたい」
といった感情的価値かもしれないのです。
この「表面的なニーズ」と「本当のインサイト」
の違いを理解することが、
自由診療の受入率を高める鍵となります。
私は200以上の歯科医院の経営改善に携わる中で、
技術的に優れた歯科医師ほど、
この「インサイト」を見抜く力が、歯科医院経営の
成功と失敗の分かれ道になると思い知りました。
実際、ある院長先生が月商250万円から
わずか3ヶ月で400万円に伸ばした時に
その要因を尋ねたことがあります。
「3ヶ月で診療技術はほとんど変わりません」
「変えたのはカウンセリングで、
いかに患者の本音を引き出すか、に全力で努めただけ」
とその先生は、笑いながら答えてくれました。
あなたの歯科医院は今、
患者の表面的なニーズだけに応えていませんか?
実際、その奥にある本当の望みに応えていますか?
なぜ技術だけでは患者に選ばれないのか
歯科医師の多くは、臨床技術の向上にとても熱心です。
セミナーや学会に参加し、最新の治療法を学び、
高額な設備投資も惜しみません。
あなたもそんな一人ではありませんか?
しかし、どれだけ素晴らしい技術があっても、
なぜか患者はその価値を十分に
理解してくれないことがあります。
ある院長は「最高の技術を提供しているのに
なぜ患者は安いだけのクリニックに流れるのか」と
嘆いていました。
答えは単純です。
患者は歯科医師ほど「技術」に価値を見出していないからです。
実は人間の購買決定の85%以上は感情に基づくと言われています。
患者が表面上で言う「痛くない治療がいい」「費用を抑えたい」
といったニーズの裏には、
「家族に負担をかけたくない」
「周囲の目を気にしている」
といった感情的なインサイトが隠れているのです。
ある患者は表向き「値段が高い」と
インプラント治療を断りました。
しかし実際は「手術が怖い」という本音がありました。
これに気づいた院長が、
恐怖心を和らげるべく丁寧な説明を行ったところ、
その患者は治療を受け入れたのです。
このように、技術力をアピールするだけでは
患者の真の不安や望みには
応えられていないことが多いのです。
一流の歯科医院とは、高い技術を持ちながら
患者の表面的なニーズの奥にある
本当のインサイトを見抜き、
それに応える医院なのです。
患者のインサイトを見極める3つの視点
では、患者の表面的なニーズの奥にある
本当のインサイトをどうすれば
見極められるのでしょうか?
臨床経験とコンサルテ経験の両軸から導き出した、
3つの視点をお伝えします。
1. 患者の「なりたい未来」を探る
患者が治療を通じて最終的に手に入れたいのは
単なる「虫歯の治療」や「歯並びの改善」ではありません。
「自信を持って人前で話したい」
「若々しい印象でいたい」
こういった「なりたい未来」こそが真のインサイトです。
初診時のカウンセリングで
「この治療が終わったら何がしたいですか?」と
目の前の患者に質問してみてください。
(それまでに十分な信頼を得ていれば)患者の表情が変わり、
本音が出てくる瞬間に立ち会えるはずです。
2. 患者の「回避したい不安」を知る
人は「得るもの」よりも「失うもの」により敏感に反応します。
ある歯周病患者は治療費を気にしていましたが、
実は「治療が長引くことで仕事に支障が出るのでは…?」
という不安を抱えていました。
このような「回避したい不安」こそがインサイトの要素の1つです。
「どんなことが心配ですか?」と率直に尋ねてみてください。
予想外の本音が飛び出すことがよくあります。
3. 患者の「価値観」を尊重する
同じ治療でも、
ある患者にとっては「安全性」が最重要かもしれませんし、
別の患者は「スピード」を何より優先するかもしれません。
ある歯科医院では、患者の価値観を知るために
初診時に簡単なアンケートを実施しています。
「理想の歯科医院とはどんな医院ですか?」
このような質問から、
患者の価値観を浮かび上がらせています。
これら3つの視点で患者を理解すると、
表面的なニーズを超えた本当のインサイトが垣間見えてきます。
そのインサイトに応えることができれば、
治療の受容率・成約率は驚くほど高まるのです。
明日から実践するインサイト発掘法
ここまで「患者のインサイトを見抜く力」の
重要性についてお伝えしてきました。
技術力は歯科医院の土台ですが、患者に選ばれるためには
その奥にある本当の望みに応える必要があるのです。
では、明日から具体的に何をすればよいでしょう?
まず、次の3つの質問を
カウンセリングに取り入れてみてください。
2.「治療について何か不安や心配はありますか?」
3.「歯科医院を選ぶとき、最も重視するポイントは何ですか?」
これらの問いかけを通じて患者の本音が見えてくるはずです。
次に、スタッフミーティングで
「私たちの歯科医院が患者に提供している本当の価値は何か?」
を話し合ってみてください。
技術やサービスではなく
「患者の人生にどんな変化をもたらすか」
という視点で考えることが大切です。
インサイトを見抜く力は
一朝一夕には身につきませんが、
意識して患者と向き合うことで確実に磨かれていきます。
そして、その力が身につけばあなたの歯科医院は
「ただの治療を提供する場所」から
「患者の望む未来を実現する場所」へと
変わっていくのです。
明日からぜひ実践してみてください。