罰則でスタッフを縛りたくなる…
先生、毎日の診療、本当にお疲れ様です。
診療が終わって一人、院長室でカルテと向き合っている時、
ふと、こんな思いが頭をよぎることはありませんか?
「どうして、何度も同じミスを繰り返すんだろう…」
「なぜ、患者にもっと気を配れないのかなぁ…」
「あの言葉使いはどうにかならないものか…」
予約時間の入力ミスでダブルブッキングが発生したり、
患者への説明が不十分でクレームになりかけたり…
あるいは、滅菌パックの準備が足りず、
診療の流れが滞ってしまう…
一つひとつは、些細なことかもしれません。
しかし、こうした小さな綻びが積み重なると、
院長である先生の心は、確実にすり減っていきますよね。
患者のために最善を尽くそうと必死になっている…
なのに、なぜスタッフにはこの想いが伝わらないのか?
その孤独感と焦りから、
「いっそ、厳しいルールで縛るしかないのか?」
という考えに行き着いてしまう…
たとえば、
「遅刻1回につき、罰金1,000円」
「器具を破損させたら、弁償させる」
「報告漏れがあれば、始末書を提出させる」
こうした罰則規定を設ければ、
スタッフにも緊張感が生まれて、ミスが減るかもしれない。
そう考える先生の気持ち、私には痛いほどわかるんです。
なぜなら、それは
「患者にもっと良い医療を提供したい」
というような、真面目さの裏返しだからです。
どうにかして現状を打破したいという、
経営者としての責任感の表れではありませんか?
しかし、先生!
少しだけ立ち止まって考えてみてください。
その罰則という名の「劇薬」は、
本当にあなたの歯科医院を、
望む未来へと導いてくれるのでしょうか?
実は、その一歩が、
スタッフの自主性を奪い、医院の活気を失わせる
「危険なスイッチ」になってしまうとしたら…
今回は、その構造についてお話ししたいと思います。
「恐怖のマネジメント」は失敗する?
罰則を設ければ、確かにスタッフの行動は
一時的に変わるかもしれません。
遅刻は減り、備品の扱いも丁寧になるでしょう。
しかし、これは対症療法に過ぎません。
根本的な問題解決には、決してつながらないのです。
なぜなら、罰則によるマネジメント、
いわゆる「恐怖のマネジメント」は、
スタッフの『意識』ではなく、
恐怖心という『感情』にしか作用しないからです。
その結果、長期的には必ず組織を蝕み、
歯科医院の成長を阻害する3つの深刻な副作用を生み出します。
副作用1:『指示待ち』を量産
罰則を恐れるスタッフの最優先事項は、
「言われたことを、言われた通りにやること」
そして「失敗しないこと」になります。
これでは、自分で考えて行動する余地がありません。
たとえば、
急患が来院した際にマニュアル外の対応が求められても、
「先生、どうしますか?」と、思考停止してしまう。
もっと効率的な滅菌の動線に気づいても、
「余計なことをして怒られたくない」と、
(院長への)提案・話しかけすらしなくなる。
つまり、スタッフは「罰せられないこと」が目的化し、
より良い歯科医院にしようという当事者意識を失うのです。
結果的に、すべての判断が院長一人に集中し、
先生の負担が増えるだけになりかねません。
副作用2:『隠蔽体質』『安全性の危機』
これは、最も危険な副作用です。
「ミス=罰」という文化が定着すると、
スタッフはミスを正直に報告しなくなります。
印象採得でわずかな気泡が入ったけれど、
再印象を指示+叱責されるのが嫌で黙ってしまう。
予約時間を間違えて入力したことに気づいたが、
バレないことを祈って放置してしまう。
こうした小さな隠蔽が、
やがては重大な医療トラブルにつながる火種となります。
本来であれば、ミスはすぐに共有し、
再発防止策をチームで考えるべき重要な情報のはずです。
恐怖のマネジメントは、その貴重な機会を
院長自らが潰しているのと同じことなのです。
副作用3:『優秀な人材』の離脱
実は、これがボディブローのように後々効いてきます。
成長意欲が高く、向上心のあるスタッフほど、
罰則で縛り付けるような管理的な職場を嫌います。
「患者のために自分のできることを増やしたい」
「もっと歯科医院の成長に貢献したい」
そう考えている優秀な歯科衛生士や歯科助手が、
信頼されず、ロボットのように扱われる環境に
やりがいを感じるでしょうか?
当然、答えは「ノー」です。
彼ら彼女らは、自分の能力を正当に評価し、
もっと主体的に働ける場所を求めて、静かに去っていきます。
結果として、歯科医院に残るのは、
指示されたことしかやらない、
モチベーションの低いスタッフばかりになるのです。
罰則という「劇薬」は、
表面的・短期的には効いているように見えます。
しかし、その裏側では、
確実にあなたの歯科医院の活力を奪い、
未来を蝕んでいくものなのです。
では、恐怖に頼らず、
スタッフが自ら輝き出すチームを作るには
どうすれば良いのでしょうか?
次の章で、その具体的な方法についてお話しします。
「価値観」で動かす
恐怖で縛り付けるマネジメントが、
いかに危険か、ご理解いただけたかと思います。
では、それに代わるものは何なのか?
それは、価値観でチームを動かすマネジメントです。
つまり、スタッフが「罰せられたくないから」ではなく、
「そうすることが、私たちの歯科医院にとって正しいから」
という基準で自ら考え、行動する組織をつくることです。
私が200以上の歯科医院のコンサルティングを通じて
体系化したのが『MACH』という考え方です。
これは、音速とは無関係ですが、院長先生が結局は
最も速く、らくにマネジメントを整えられる手法です。
Mechanism:仕組みで解決する
Automation:自動化する
Culture:院内文化(価値観)を共有する
High standard:当たり前の基準を高く保つ
この4つの頭文字を取ったものです。
これらを機能させることで、罰則に頼らずとも
スタッフの質とモチベーションは劇的に向上します。
『価値観』で方向づけする
すべての始まりは、
Culture:院内文化(価値観)の共有です。
これが全ての土台になります。
先生は、何のためにこの場所で
歯科医院を開業したのですか?
きっとカリエスの治療だけではないはずです。
「インプラントを通じて、もう一度噛める喜びを提供したい」
「徹底した予防で、患者の10年後の健康を守りたい」
そうした熱い想い、つまり医院理念・価値観を、
スタッフ全員が理解し、共感できる言葉で示していますか?
理念は、単なる院長室の飾りではありません。
日々の判断に迷ったときに立ち返るべき「北極星」です。
「この対応は、私たちの価値観に合っているか?」
この問いが、スタッフ一人ひとりの行動基準になります。
理念・価値観が浸透すれば、
「患者に不安を与えないよう、報告はすぐしよう」
「理念を実現するため、新しい滅菌方法を試そう」
と、スタッフは自発的に考え始めるのです。
『仕組み』でスタッフを「パートナー」に
C:院内文化・価値観・理念という目的地を共有できたら、
次は、Mechanism:仕組みでそれをサポートします。
根性論だけでは組織は動きません。
たとえば、報告漏れが多いのであれば、
「終礼でヒヤリハットを共有する時間(5分)を設ける」
という仕組みをつくるのです。
これは、ミスを責める場ではありません。
理念実現のために、全員で改善策を考えるポジティブな場です。
備品の管理がずさんなら、
担当者を決めて在庫管理表を作成し、
週に一度チェックする仕組みを導入する。
重要なのは、個人の資質の問題にせず、仕組みで解決すること。
これにより、スタッフは安心して業務に取り組めます。
脳力・能力の浪費を減らす
スタッフのタスクは多岐にわたります。
1つ1つをその都度判断していては、疲労が蓄積して
最終的には仕事の精度が落ちていきます。
そこで有効となるのが、Automation:自動化です。
特に似たようなタスクを何度も繰り返す場合、
あらかじめ用意できる部分を自動化できないか、
検討して可能なら、ツールやアイテム化してしまいましょう。
例えば、手術後の患者にする注意事項などは
抜歯でも、歯周外科でも、インプラント埋入オペでも
ほとんど同じです。
であれば、注意事項説明書を事前に用意しておいて、
患者に一通り読んでもらってから質問に答える形式にすれば
毎回一から説明しなくても済むようになります。
さらに、その説明を読み上げる様子をスマホで撮影して
多少整備して動画にしてしまえば、
その場でタブレットで見せることも
QRコードで患者自身のスマホで視聴してもらうことも可能です。
「そんな手間暇をかけたくない…」
と感じるのは当然ですし、気持ちはよくわかります。
しかし、スタッフのタスク、特に単純作業を減らして
その負担を省力化することは、結果的に先生の望む
「スタッフの自主性」を後押しすることになります。
1つ1つの自動化は小さなものですが、
その過程でタスクの無駄や見直しにもなりますので
登場回数の多い、スタッフが繰り返しているものから
自動化できないかを検討してみましょう。
罰則より、ポジティブな承認を
そして最後に、High standard:当たり前の高い基準です。
価値観・理念が共有され、仕組みが整い、自動化が進むと、
チーム全体の「当たり前」のレベルが自然と上がっていきます。
以前は院長しか気にしなかったような、
「待合室の雑誌が乱れていないか」
「患者のスリッパが揃っているか」
といった細部に、スタッフが自ら気づき、行動し始めるのです。
ここで重要なのは、その行動をすかさず承認することです。
「〇〇さん、ありがとう。よく気づいてくれたね」
「その気配りが、患者の安心に繋がるんだよ」
罰金・罰則が与える恐怖より、
院長からのたった一言の感謝と承認の方が、
人の心を何倍も強く動かします。
このポジティブなフィードバックこそが、
スタッフのモチベーションとなり、
当たり前の基準をさらに高めていく好循環を生むのです。
罰則規定を考える前に、まず、
先生の熱い想いを、もう一度スタッフに語ってみませんか?
罰則規定を撤廃するための「最初の一歩」
ここまで、罰則がいかに危険で、
それに代わる価値観の共有が
いかに重要かをお話ししました。
「恐怖のマネジメント」はスタッフの自主性を奪いますが、
理念を共有し、仕組みで支え、ポジティブな承認で満たす
『MACHマネジメント』は、
スタッフを最高のパートナーへと変える力を持っています。
「理屈はわかった。でも、明日から何をすれば?」
そう思われた先生へ、私が提案したい「最初の一歩」は、コレ!
ここから始めてください。
なぜ、今の場所で歯科医院を続けているのか。
どんな患者を、どのように幸せにしたいのか。
5年後、この歯科医院をどんな場所にしたいのか。
その想いを紙に書き出し、次のミーティングで、
ご自身の言葉でスタッフに語りかけてみませんか?
「これが、私が目指している歯科医院の姿なんだ」と。
罰則で縛るのではなく、未来のビジョンで導く。
その小さな一歩が、先生の歯科医院を
必ず良い方向へと動かすドミノの1枚目になります。
スタッフの顔色をうかがう日々は、もう終わりにしましょう。
先生の熱い想いを羅針盤に、
スタッフと共に、同じ未来を目指す航海を始めるのです。
その方が、ずっとワクワクしませんか?









