なぜ優秀な院長ほど、お金が残らないのか
先日、ある経営者向けセミナーで
興味深いデータを目にしました。
「年収1000万円以上の専門職のうち、
資産形成に成功している割合は38%」
つまり、6割以上が収入と資産の乖離に悩んでいるのです。
これは歯科医院の院長にも
そのまま当てはまる現実ではないでしょうか。
あなたは歯科大学で必死に勉強し、国家試験に合格、
歯科医師となってからも臨床セミナーに通い、
治療技術では近隣の歯科医師に負けない自信がある…
それなのに、預金残高を見るとなぜか増えていない…
開業資金の返済、スタッフの給与、設備投資、生活費…
毎日診療しているのに、手元に残るお金が少なすぎる…
「もっと患者を増やせば解決するはずだ」
そう考えて集患に力を入れてみる…
しかし、患者が増えても資金繰りは楽にならない…
実はこの問題、多くの院長が陥っている
「ある勘違い」が根本原因なのです。
その勘違いとは、
税理士や会計士を「経営のプロ」だと
思い込んでいることです。
この誤解が、真面目な院長ほど
お金が残らない構造を生み出しています。
「税理士は経営のプロ」という誤解
多くの院長が、顧問税理士に
経営相談をしています。
「うちの医院の経営状況はどうでしょうか?」
「もっと利益を出すには何をすべきですか?」
しかし、ここに大きな誤解があります。
税理士は税金のプロであって、
経営のプロではないのです。
税理士の専門領域は明確です。
それは「適切な税務申告」と
「税法に基づいた節税提案」です。
決算書を正確に作成し、
税務署に対して説明責任を果たす。
これが税理士の本来の役割なのです。
同様に、会計士も
経営の健全性を外側からチェックする専門家です。
財務諸表が適正に作成されているか、
不正な会計処理がないか、第三者として監査する。
これが会計士の仕事です。
つまり、両者とも
「過去の数字を正確に処理する」
ことが専門なのです。
未来の収益を生み出す戦略や、
歯科医院特有の経営課題については専門外です。
特に歯科医院の経営には独特の知識が必要です。
たとえば、
・リコール率を改善する仕組みづくり
・チェアタイムの最適化
・スタッフの定着率向上策
これらは税務や会計の知識では
解決できない領域です。
あなたの顧問税理士は、
保険診療と自由診療の収益構造の違いを
理解しているでしょうか?
ユニット1台あたりの
適正な売上目標を知っているでしょうか?
おそらく、答えは「ノー」でしょう。
それは税理士が無能だからではありません。
それが彼らの専門領域ではないだけなのです。
しかし多くの院長は、
この事実を正確に理解していません。
そして、さらに問題なのは、院長自身の要望が
「税金を減らすこと」に
偏っているという事実です。
税金への嫌悪感が生む悪循環
「先生、今年は利益が出そうですね」
税理士からこう言われたとき、
あなたはどう感じるでしょうか?
多くの院長は「嬉しい」ではなく、
「税金をたくさん取られる」
という不安を感じます。
そして、すぐにこう尋ねるのです。
「何か節税対策はありませんか?」
この心理は理解できます。確定申告で、
数百万円の税金支払いを宣告されれば、
「こんなに持っていかれるのか」
という痛みを感じるでしょう。
税金は目に見える出費です。
わかりやすい「痛み」なのです。
だから、その痛みを避けようと必死になる…
これは人間として自然な反応です。
しかし、ここに落とし穴があります。
税金という「見える痛み」にだけ注目し、
それ以外に目が向かなくなるのです。
本来、経営で重要なのは
「税引き後にいくら残るか」です。
ここで極端な例を挙げましょう。
・B案:利益500万円、税金100万円、手残り400万円
どちらを選ぶべきでしょうか?
答えは明らかにA案です。
税金は200万円多く払いますが、
手残りは300万円も多いのです。
ところが、税金への嫌悪感が強い院長は、
「税金を200万円も余計に払うなんて」
とB案を選んでしまう傾向があります。
結果として税金は減ったが、
残るお金も減るという本末転倒な状態に陥るのです。
「税金も、残るお金も減る」矛盾
では、具体的にどのような節税対策が
間違った選択なのでしょうか。
典型的な例を3つ挙げます。
①不要な設備投資による節税
「利益が出たから、新しいユニットを入れましょう。
減価償却で税金が減りますよ」
税理士からこう提案されたとします。
しかし、そのユニットは
本当に今、必要でしょうか?
現在の患者数で稼働率は十分に高いでしょうか?
仮に500万円のユニットを購入すれば、
確かに当期の税負担は減ります。
しかし、500万円のキャッシュは確実に出ていくのです。
税金を150万円減らすために、500万円を使う…
手元からは350万円の利益が消し飛んでいます。
②過剰な消耗品の購入
「年内に材料をまとめ買いして、
経費を増やしましょう」
これもよくある提案です。
しかし、数年分の消耗品を買い込んでも、
そのお金は戻ってきません。
在庫として眠っているだけです。
しかも保管スペースを圧迫し、
使用期限のリスクも抱えます。
使い切らずの廃棄となればむしろ損失です。
③生命保険への過剰加入
法人化されている先生なら
「全額損金の保険に入れば節税できます」
という提案も要注意です。
確かに保険料は経費になりますが、
将来の解約返戻金は収益として課税されるのです。
つまり、課税を先送りしているだけ。
しかも、途中解約すれば
元本割れするリスクもあります。
これらの共通点は何でしょうか?
「税金は減るが、使えるお金も減る」
という矛盾です。
本来、経営で目指すべきは
税引き後の手残り最大化です。
税金300万円でも、手元に700万円残る方が、
税金100万円で手残り400万円よりも
はるかに健全なのです。
しかし、税金への嫌悪感に支配された院長は、
この単純な事実が見えなくなっています。
「お金が残る経営」への転換
では、どうすればいいのでしょうか。
答えはシンプルです。
まず、税理士との関係を見直してください。
彼らは「税務の専門家」であり、
「歯科医院経営の専門家」ではありません。
この事実を認識するだけで、判断基準が変わります。
節税提案を受けたら、必ずこう自問してください。
「税引き後の手残りは増えるのか?」
この質問に明確にイエスと答えられない提案は、
すべて見送るべきです。
そして、経営判断の基準を
「税金をいくら減らせるか」から
「手元にいくら残せるか」へ切り替えましょう。
税金は、利益が出た結果として支払うものです。
利益が出ているということは、
あなたの医院が価値を生み出している証拠なのです。
適正な税金を払い、
それでも手元に十分なキャッシュが残る。
これが健全な経営です。
今日からできる最初の一歩は、
決算書の「当期純利益」ではなく、
「現金預金残高」を毎月確認することです。
お金が残る経営への転換は、
この小さな習慣から始まります。









