目の前の患者に「高い」と言われない料金設定術
「先生、それって高くないですか?」
この患者からの一言に、何と答えればいいか
一瞬言葉に詰まった経験はありませんか?
私は歯科医師として臨床経験を積みながら、
多くの院長先生からの相談に乗り、
歯科医院の経営改善の手伝いをしてきました。
そこで気づいたのは、多くの院長先生が
自由診療の料金設定に自信が持てていないという事実です。
今回は、患者に「高い」と言われない、
むしろ「この価格でこの価値なら納得」と
思ってもらえる料金設定の秘訣をお伝えします。
なぜ自由診療の料金設定で悩むのか
歯科大学で学んだことを思い出してみてください。
カリキュラムの中に
「自由診療の適正価格の決め方」の講義はありましたか?
おそらくほぼ全ての先生が「なかった」と答えるでしょう。
私たちは治療技術や医学知識については徹底的に学びますが、
料金設定という「経営の技術」については
ほとんど教わらないまま開業するのが現実です。
そして多くの院長先生は、
こんな基準で自由診療の料金を決めてしまいます。
「少し安くして患者を集めよう」
「技工料の3倍くらいにしておけば無難だろう」
こうした「なんとなく」の料金設定が、
後々あなたの歯科医院の経営を苦しめることになります。
例えば、ある院長からこんな相談を受けました。
競合より2万円安くしているのに、なぜだろう?」
この先生、実は重要な視点を見落としていました。
単に「安い」というだけでは患者は動きません。
なぜなら、安さは「価値の低さ」と
結びつけて考える患者も少なくないからです。
また別の先生からは、
「料金表を見せると必ず『高い』と言われて萎縮してしまう」
という悩みを聞きました。
これらの悩みの根本には、
「料金」と「価値」の関係性への誤解があります。
自由診療料金設定の黄金の三角形
自由診療の料金設定は、
単なる「数値の問題」ではありません。
それは3つの重要な要素が交わる
「黄金の三角形」の中心点に位置するものです。
この3つの要素とは何でしょうか?
1. 目標利益からの逆算
まず、その自由診療1件を行うことで
どれだけの利益を得たいのかを明確にします。
例えば、セラミック治療1本あたりの材料費、
技工料、チェアタイム、スタッフコストなどを
すべて計算した上で、希望する利益額を加えます。
「月に200万円の利益をこの自由診療で確保したい」なら、
1本あたりの利益と必要な症例数を逆算できます。
多くの先生は「原価の3倍」などと
漠然とした計算をしがちですが、
それでは経営は安定しません。
2. 競合との差異化とその価値
次に、近隣の歯科医院が提供している
同種の(ように患者には見える)自由診療と
あなたの歯科医院での自由診療との違いを明確にします。
「易清掃性にこだわった治療を行っている」
「治療後のメンテナンス受診で保証期間延長」
こうした差異がもたらしている
患者にとっての具体的な価値を
料金価格に換算・反映させていますか?
差異化ポイントが多ければ多いほど、
その価値に見合った強気の価格設定が可能になります。
3. ターゲット患者の特定・絞り込み
最後に、あなたの自由診療を求める患者は
どんな属性・価値観を持っているかを設定します。
例えば、「審美性を重視する40代の女性管理職」や
「長期的な口腔健康を求める経営者層」など、
明確なイメージを持つことが重要です。
このターゲットは、あなたの歯科医院に
どのよううな経路で来院するのでしょうか?
その集客経路と集患の難易度も
料金設定の重要な判断材料となります。
これら3つの要素が交わる点こそが、
あなたの歯科医院の当該自由診療にとっての
最適な自由診療料金のヒントとなるのです。
自由診療料金の見直し実践ステップ
では、実際にあなたの歯科医院の自由診療料金を
見直すための具体的なステップをお伝えします。
今日からでも取り組める実践的な方法です。
ステップ1:利益目標の明確化
まず、A4用紙を用意し、提供している
自由診療のリストを書き出してください。
次に各診療に必要な材料費、技工料、
人件費(チェアタイム×人件費単価)を計算します。
そして「この診療1件で○万円の利益を得たい」
という目標額を設定します。
「なぜその金額なのか?」を自問自答することで、
あなた自身の納得感も生まれます。
ステップ2:競合分析シートの作成
次に、半径2km以内の競合歯科医院の
同種自由診療の料金をリサーチします。
現在はインターネットや電話での問い合わせで
多くの情報を入手できます。
そして自院と競合との「差異点」を箇条書きにします。
この時、患者目線での価値を必ず書き添えてください。
例えば「最新のデジタルスキャナー導入」という差異点なら、
「印象採得の不快感がなく、治療期間も短縮」
という患者メリットを明記します。
ステップ3:ペルソナ設定と来院経路の検討
最後に、ターゲットとなる理想的な患者像を
できるだけ具体的に描きます。
年齢、性別、職業、家族構成、趣味、悩み…
まるで実在の人物のように詳細に設定します。
そして、その患者があなたの歯科医院を
どのように知り、来院するのかの経路を考えます。
「インターネット検索からホームページ閲覧」
「既存患者からの紹介」「医院前の看板やチラシ」など、
具体的な経路を想定します。
来院難易度が高いターゲットほど、
集客コストがかかることを念頭に置いてください。
ステップ4:3つの要素を統合した料金設定
これら3つの分析結果をもとに、
あなたの歯科医院ならではの自由診療料金を決定します。
この料金に自信を持って説明できるよう、
患者への伝え方も練習しておきましょう。
「なぜこの料金なのか」を説明できれば、
患者からの「高い」という言葉も減っていきます。
料金設定は超重要な”経営スキル”
多くの院長先生は、診療スキルの向上には
時間もお金も惜しみなく投資します。
しかし、料金設定という経営スキルには
あまり目を向けていないのではないでしょうか?
実は、適切な料金設定ができるかどうかが、
あなたの優れた診療技術を
正しく評価してもらえるかどうかを左右します。
患者は「歯科治療の専門家」ではないため、
治療の質を直接評価できません。
そのため、料金という「見える指標」から
価値を判断する傾向があるのです。
今日お伝えした「黄金の三角形」の考え方を使って、
ぜひ一度、自院の自由診療料金を見直してみてください。
料金設定は単なる数字の問題ではなく、
あなたの歯科医院の価値を伝える
重要なコミュニケーション手段なのです。
適切な料金設定ができた時、
「高い」と言われることはむしろ減り、
納得して治療を受ける患者が増えていきます。