あなたは自分の歯科医院が地域の中で、もしくは特定の分野で、
どのポジションにいるか、正確に把握していますか?
「患者さんからの評判も良いし」
と思っていらっしゃる先生は多いでしょう。
しかし、歯科医院経営において、市場でのポジションを
正確に認識せずに戦略を立てることは、
羅針盤なしで航海をするようなものです。
私は200医院以上の経営改善の手伝いをしてきましたが、
多くの歯科医院が抱える問題の根本には
「自院のポジションに合わない戦略」
を取っていることが多々ありました。
歯科医院の経営戦略は極論すれば
「1位の戦略」「2位の戦略」「その他の戦略」
しかないのです。
この考え方は「ランチェスター戦略」と呼ばれ、
市場での現在のポジションに基づいて
最適な戦略を選択する理論です。
例えば、ある郊外の歯科医院は
インプラントの患者数で地域3位と目されていましたが、
1位の医院と同じように広告宣伝に力を入れた結果、
広告費だけがかさみ、収益改善ができませんでした。
そこで、3位という現実のポジションに適合した
戦略に切り替えることで、状況が好転させたのです。
あなたの歯科医院は今、
地域で何番目のポジションにいるでしょうか?
患者数..売上高…認知度…
様々な指標がありますが、まずは冷静に
現状を分析することが戦略構築の第一歩となります。
臨床技術を磨くことは当然重要ですが、
同様に重要なのが、自院のポジションに応じた
適切な経営戦略を選択し実行することなのです。
これを理解したところで、各ポジションにおいて
歯科医院がどのような戦略を取るべきか、
具体的に見ていきましょう。
1位の歯科医院が取るべき戦略
〜優位性の維持と拡大〜
もしあなたの歯科医院が地域でトップの
ポジションにあるなら、おめでとうございます。
しかし、1位であるがゆえの課題と責任があることを
お忘れではないでしょうか。
ランチェスター戦略の第一法則によれば、
市場リーダーは「正面からの総力戦」が最も効果的です。
つまり、あなたが持つ「規模の優位性」と「網羅性」を
最大限に活かした戦略が求められているのです。
1位の歯科医院の最大の強みは「網羅性」にあります。
一般的な治療からマイナーな治療までカバーすることで、
他院の台頭する隙を与えないことです。
例えば、カリエス、予防歯科、矯正、インプラント、
審美歯科、小児歯科、口腔外科、欠損補綴、歯周病…
これらをすべて自院で提供できれば
患者が他院に流れる理由はほぼなくなります。
特に注意すべきは「今後伸びる可能性のあるニッチ分野」です。
睡眠時無呼吸症候群への歯科的アプローチや
スポーツマウスガードなど、今はマイナーでも
将来性のある分野こそ1位の医院が先に取り組むべきなのです。
ただし、真の「イノベーター」になる必要はありません。
治療法も、設備も、導入は「アーリーマジョリティ」の
タイミングが最適です。
つまり、技術が実証され始め、市場が形成されつつある…
そんな段階で参入するのが賢明です。
リスクを大きく負わずに、資金力で2位以下を蹴散らすのです。
例えば、私がコンサルティングした1位の歯科医院には、
デジタルスキャナーの早期導入を検討中でしたが、
「普及率が15%を超えた時点」まで導入の我慢を提案しました。
結果、初期不良や個体差エラー、先行投資のリスクを避けつつ、
運用環境が安定した適切なタイミングでの導入ができました。
また、「市場を教育する」責任については、まずは自院が
最も強みを持つ治療分野の裾野を広げることに注力すべきです。
例えば、予防歯科に強みがあるなら、
その重要性を伝える啓発活動に力を入れ、
市場を拡大することが長期的な優位性につながります。
先生は自院の「網羅性」についてどのように評価していますか?
市場リーダーこそ、すべての診療領域をカバーする責任があるのです。
2位の歯科医院が取るべき戦略
〜局地戦と差別化の実践〜
あなたの歯科医院が地域で2位のポジションにあるなら、
1位とは異なる戦略が必要です。
ランチェスター戦略の第二法則によれば、
2位のポジションでは「局地戦」が最も効果的な戦略です。
つまり、1位と同じことをしても勝てない。
だからこそ”差別化”と”特化”が生き残りの鍵となるのです。
私がコンサルティングした2位の歯科医院での
成功した事例をお話しします。
この医院は患者数・売上ともに地域で2番目でしたが、
1位に追いつけと広告費を増やし続け、収益悪化を招きました。
そこで戦略を180度転換し、「審美歯科」の分野に特化して、
6ヶ月で審美治療の症例数が地域1位になったのです。
2位の医院が採るべき戦略の本質は
「全方位での競争を避ける」
「特定分野での圧倒的な強みを作る」です。
例えば、矯正歯科、審美歯科、予防歯科、
インプラント、小児歯科、高齢者歯科など、
特定の分野に経営資源を集中することで、
その領域では1位を上回ることを目指します。
また、1位が手薄な患者層や地域に
フォーカスするのも効果的です。
例えば、働く女性向けの夜間診療に特化したり、
特定の年齢層(シニア層など)に特化したサービスを
提供することで、独自のポジションを確立できます。
2位の医院が陥りがちな罠は
「1位の真似をする」ことです。
1位と同じ広告を出し、同じサービスを提供し、
同じ設備を導入しても、リソースの差で必ず不利になります。
あなたの歯科医院の「独自の強み」は何でしょうか?
それを見極め、そこに資源を集中することが
2位の医院にとっての正しい選択なのです。
また、戦略的提携も有効です。
例えば、特化した分野以外の症例は、他の専門医院と
連携することで、患者に総合的な価値を提供できます。
2位だからこそ、柔軟性と機動力を活かした
差別化戦略で、持続的な成長を実現することができるのです。
その他のポジションの歯科医院が取るべき戦略
〜ニッチ市場での圧倒的優位性の確立〜
あなたの歯科医院が地域で3位以下の
ポジションにあるなら、生き残りには
「超特化戦略」が不可欠です。
ランチェスター戦略の観点からは、弱者が強者と
同じ土俵で戦えば、必ず敗れるという原則があります。
だからこそ、市場の細分化された「ニッチ市場」で
圧倒的な存在感を示すことが重要なのです。
例えば、地域で5番目の規模だった歯科医院が
「スポーツ歯科」だけに完全特化して、わずか1年で
地域のアスリートから絶大な支持を得た例もあります。
3位以下の医院が成功するための
ポイントは「とがった専門性」です。
例えば、「噛み合わせ専門」「歯周病専門」
「恐怖症の患者専門」「障がい者歯科専門」など、
極めて狭い領域での専門性を徹底的に高めることです。
このアプローチの利点は、
特定の患者層からの絶大な支持と
口コミによる自然な患者獲得にあります。
また、超特化することで広告メッセージも鮮明になり、
限られた広告予算でも効果を最大化できます。
「気になる歯を治す」という漠然としたメッセージではなく、
「噛み合わせの痛みに悩む女性のための」といった
具体的な対象を設定することで、”刺さる”表現が可能になります。
さらに、超特化は価格競争からの脱却も意味します。
専門性の高い治療・サービスには、それに見合った
適正な対価をいただくことができるのです。
あなたの歯科医院は何に特化できますか?
何を徹底的に極めることができますか?
3位以下のポジションにあるからこそ、「誰にでも」ではなく
「特定の誰かに特定の何かを」提供する歯科医院に
なることこそが、生き残りの道なのです。
自院のポジションを正しく認識し、
適切な戦略で未来を切り開く
ここまで見てきたように、歯科医院の経営戦略は
市場ポジションによって大きく異なります。
2位なら「差別化」と「局地戦」、
3位以下なら「超特化」と「ニッチ市場開拓」
これが成功への王道です。
まずは冷静に自院の現在のポジションを
分析することから始めましょう。
そして、そのポジションに合った戦略を
一貫して実行することが、
歯科医院経営成功の鍵となるのです。
明日からでも、あなたの歯科医院に
最適な戦略を実践してみてください。