近 義武の歯科医院経営大学

私が200を超える歯科医院のコンサルティングを行ってきた中で、最も興味深い発見は、
同じ保険診療中心の歯科医院でも、まったく異なる患者層を惹きつけているという事実です。

ある医院には予防意識の高い患者が集まり、別の医院には急患が絶えない—この違いは偶然ではありません。
院内の雰囲気、時間の使い方、治療コンテンツ、接客スタイル…
これらすべてが、無言のメッセージとなって特定の患者層に届いているのです。

先日、ある院長先生から
「うちは新患数は少なくないのに、なぜか自費率が上がらないんです」と相談を受けました。

診療室にうかがうと、設備は最新鋭、スタッフの接客も丁寧。
しかし待合室の患者さんの表情を観察して気づいてしまいました…
先生の歯科医院は知らず知らずのうちに「急いでいる患者」を集める仕組みになっていたのです。

これはまさに、多くの院長先生が直面しているジレンマではないでしょうか？
月商300万円前後で推移し、毎日20名ほどの患者さんを診ているものの、自由診療は1割程度。
臨床技術には自信があるのに、なぜか経営面では思うような結果が出せない…

この状況を打破するには、まず「あなたの医院は何を約束しているのか？」から
見つめ直してみる必要があります。

現在の来院患者層は院長先生の意識的・無意識的な選択の結果であり、
その”選択”が歯科医院全体から発せられるメッセージとなって、
特定の患者層に響いたことで彼らを引き寄せているからです。

患者価値観の多様性と歯科医院選択の法則

歯科医院経営で最も見落とされやすいのが、患者の価値観の多様性です。
患者は単に「治療を求める人々」ではなく、
それぞれが異なる健康観と優先事項を持っています。

保険診療は確かに統一価格ですが、これは逆説的に
「価格以外の要素」で選ばれる必要があることを意味しています。

私の経験から言えば、医院の成長停滞の多くは
「全ての患者に平等に対応しよう」という誤った前提から始まるっています。

あるクライアント院長はこう語りました。

「近先生のアドバイスで、予防に力を入れる医院だと明確に打ち出したところ、
最初は患者数が減りましたが、3ヶ月後には予防意識の高い患者さんが増え、
自費率が15%から38%まで上昇しました^^」

この事例が示すように、歯科医院が発する情報と
院内での一貫した表現が、特定の患者層からの支持を集めるのです。

「誰にでも好かれる医院」より
「特定の価値観を持つ患者から絶大な支持を得る医院」を目指す方が、
経営的には遥かに合理的です。

年商3000万円台の医院の多くに共通するのは、この「ターゲット患者層の曖昧さ」です。
一方、年商8000万円を超える医院は、例外なく明確な患者層を意識した情報を発しています。

具体的には、患者の価値観は多岐に渡りますが、わかりやすい価値観をいくつか示して起きます。

– 予防重視型：定期的なメンテナンスを重視し、長期的な口腔健康に投資する患者
– 美容追求型：見た目や審美性を重視し、自費診療にも積極的な患者
– 機能回復型：咀嚼機能の回復を最優先し、専門的な治療を求める患者
– 急患解決型：痛みなど急性症状の解消のみを求める患者

あなたの歯科医院が最も大きくて高い価値を提供できるのは、どのような患者層ですか？
そして、その患者層に響くメッセージを一貫して発信できていますか？
意識的に発信している情報のみならず、あらゆる可能性をチェックしてみる必要があります。

”急患”の特性と対応戦略

歯科医院経営において”急患”は非常に特徴的な市場セグメントです。
どこの歯科医院でも日常的に来院する急患の背後には、
彼らの明確な行動パターンと価値観が存在しています。

”急患”の典型的な特性

急患には以下のような特徴的な要望パターンがあります。

– 「外れた詰め物だけをつけて欲しい」
– 「痛みが取れたら、それ以上の治療は不要」
– 「主訴以外の治療には関心がない」
– 「予約なしでも診てほしい」
– 「検査や説明は最小限で良い」
– 「短時間・少ない通院回数での完結を希望」
– 「治療中断や無断キャンセル後も非難せず受け入れてほしい」

興味深いことに、彼らは自らの要望に合致する医院を非常に効率的に見つけ出します。
ある埼玉県の医院では、特に広告を出していないにもかかわらず、
「ここは待たずに診てくれる」という口コミだけで急患が増加していました。

「今度は真面目に治療します」とドクターに約束したのに
次回予約を無断キャンセルされた経験は、あなたも経験されているのでは？

本当に真面目に治療に通う患者もいるので…

この記事の公開は2025年8月31日まで