Last Updated on 2025.9.4 by 近 義武
共感力が歯科医院の成長を左右する
先日、ある喫茶店でこんな光景を目にしました。
店員さんが
「お待たせして申し訳ありませんでした」と頭を下げると、
苛立っていたお客さんの表情が一瞬で和らいだのです。
これを見て、人は自分の感情を理解してもらえる
だけで、どれほど救われるかを改めて実感しました。
これは歯科医院の診療でも全く同じことが
言えるのではないでしょうか。
歯科医院を訪れる患者は、痛みや不安、恐怖心を抱えています。
時に怒りさえ感じている方もおいでになります。
あなたも毎日、ユニットに座る患者の言葉に
真剣に耳を傾けていることでしょう。
しかし「痛みはなかったですか?」と聞くだけでは
表面的な会話で終わってしまいます。
患者が本当に望んでいるのは、
自分の辛さを理解してくれる医療者の存在なのです。
私はこれまで多くの歯科医院の実情を見てきましたが、
成長・成功した歯科医院にはいくつか共通点がありました。
そのうちの1つが「患者の言葉の裏にある感情に
共感できる院長とスタッフがいる」ということです。
月に新患が50人以上訪れる歯科医院と、
20人程度の歯科医院。
その差は治療技術だけではありません。
患者の心を開く「共感力」が、
大きな差を生み出しているのです。
今回は、患者満足度を高め、
リピート率と紹介率を向上させる
「共感コミュニケーション」についてお伝えします。
これは難しいテクニックではなく、
今日から誰でも実践できる
シンプルな考え方と言葉の使い方です。
患者の言葉の裏に隠れた本当のニーズ
「先生、この歯がズキズキして、
昨夜は食事も満足にできなかったんです」
こんな患者の言葉を聞いたとき、
あなたはどう応答していますか?
多くの院長先生は「どのあたりが痛みますか?」と
症状の特定に向かいがちです。
もちろん、それは医療従事者として当然の対応です。
しかし、患者はただ症状を伝えているだけではありません。
患者が「食事も満足にできなかった」とわざわざ伝える時、
そこには深い感情的なメッセージが隠されています。
それは
「自分がどれだけ辛い思いをしたかわかってほしい」
という切実な願いです。
患者は単に治療を求めているのではなく、
「自分の苦痛を理解してほしい」
「親身になって対応してほしい」
と心の中で訴えているのです。
ある歯科医院では、患者の訴えに対して
すぐに治療プランの説明に入っていました。
結果として、その歯科医院の自由診療成約率やリコール率は
低調なまま数年間推移しており、
患者からの新患の紹介もほとんどありませんでした。
患者の言葉を表面的にしか受け止めていなかったのです。
人間の脳は、「自分の感情を理解してくれない人」に対して
無意識のうちに警戒心を抱きます。
これは神経科学的にも証明されている事実で、
信頼関係構築の大きな障壁となります。
逆に、「自分の感情を理解してくれた」と感じると、
脳内ではオキシトシンという幸福ホルモンが
分泌され、相手への信頼感が高まります。
つまり、患者の言葉の裏にある感情に共感できるかが、
その後の治療への協力度や継続的な来院を左右するのです。
医学的知識と高度な治療技術を持つ先生だからこそ、
時に見落としがちな「感情の共有」という
基本的なホスピタリティが、経営への寄与度を増すのです。
信頼関係を構築する共感フレーズ
では、具体的にどのような言葉で
患者に共感を示せばよいのでしょうか。
効果的な共感フレーズには明確な構造があります。
「②推測される感情」
「③その感情の理解」
という3つの要素を全て盛り込むことです。
先ほどの例でいえば、「食事も満足にできなかった」
という患者の言葉に対して
食事が満足にできなかったのは、
体調の維持も心配で、さぞお辛かったですね」
と返すことができます。
この一言には、①「食事ができなかった事実」、
②「体調維持への心配」、③「辛さへの理解」
という3要素が含まれています。
他にも効果的な共感フレーズの例を
いくつか紹介しましょう。
「歯がグラグラして気になるとおっしゃいましたが、
毎日の食事や会話の際にも不安を感じておられたのではないですか」
「痛みで眠れなかったのですね、
睡眠不足は日常生活にも影響して本当に辛いですよね」
・「お子さんの前歯が欠けてしまったわけですね、
お子さんの見た目を心配される親心はよく理解できます」
重要なのは、これらを単なるテクニックとして使わないことです。
形だけの共感は患者にすぐに見透かされます。
真の共感には「患者の立場に立って考える」
という真摯な姿勢が必要です。
患者満足度が高い、ある歯科医院では、
スタッフ全員が毎朝のミーティングで
「今日来院する患者の気持ちを想像する」
という時間を設けていました。
共感の言葉は、患者だけでなく
スタッフとの関係構築にも有効です。
「昨日は遅くまで残業してくれて本当に助かりました。
疲れているのに笑顔で患者に接してくれて感謝しています」
このような言葉で院長がスタッフに共感すれば、
職場の雰囲気も良くなり、スタッフの定着率も向上します。
共感フレーズを日常的に使えるようになるには練習が必要です。
まずは1日1回、意識して共感の言葉を
口にすることから始めてみてください。
”共感”が歯科医院の評判と収益を高める
ここまで、患者の言葉の裏にある感情を理解し、
共感を示す言葉の重要性についてお伝えしてきました。
共感コミュニケーションは、単なる接遇マナーではなく
歯科医院経営を根本から変える力を持っています。
共感コミュニケーションの導入した歯科医院では、
実際に次のような変化が起きたと聞きました。
・再来院率の20%向上
・自由診療の提案に対する成約率の向上
・患者からの紹介数の増加
・オンラインレビューの評価向上
・スタッフの定着率アップ
これらはすべて収益向上に直結する指標です。
特別な設備やシステムなどを必要としないで
これだけの成果が期待できる施策はなかなかありません。
では最後に「共感コミュニケーション」導入に向けての
アクションプランを示しておきましょう。
1. 毎朝のミーティングで
「今日も患者の気持ちに共感する一日」と宣言する
2. 患者の言葉に対して、感情を言語化する練習をする。
慣れるまでは鸚鵡返しで十分OK!
「なるほど、それは○○と感じられたのですね」など。
3. スタッフ同士で共感フレーズを日常的に使う習慣をつける
「それってこう感じた・思ったってこと?」などと質問し合って
お互いに感情や想いに共感する機会を増やす。
患者が真に求めているのは、高度な治療技術だけでなく
「自分を理解してくれる医療従事者」の存在です。
その期待に応えることが、
歯科医院の評判と収益を高めていく近道なのです。