Last Updated on 2025.10.5 by 近 義武
「その他大勢」と「唯一無二」
我々医療従事者は1日の間に多くの患者を診ます。
医療を提供する我々の立場からすれば、
我々の目の前にいるのは、たくさんの患者の中の1人にすぎないのです。
同様に、開いている口はたくさんの口腔の1つ、
たくさんの症状の1つ、たくさんの症例の1つにすぎません。
しかし、患者本人にとって、自分は唯一無二の存在です。
たった1つの身体であり、自分自身の歯であるのです。
自分がまさに困っている症状、抱えている問題なのです。
自分にとってのたった1つ、Only Oneの出来事です。
さらに、我々は歯科医学知識・専門知識によって
患者のその悩みや問題、症状のほとんどが
「大したものではない」と予測していて、
実際も「大したものではない」と知っています。
しかし患者には「大したものではない」と思えるような
歯科医学知識・専門知識はありません。
むしろ「よくわからない」ということによって
恐怖や心配・緊張・ストレスを倍増させているのです。
当事者と従事者との間には、認識に大きな温度差があります。
コレを埋めるものがホスピタリティであって欲しいと考えます。
心底からのホスピタリティで、この「認識の温度差」が埋められるなら
それはそれで結構なことです。
しかし、ホスピタリティは個人的な資質によるものです。
そこに頼っていては、スタッフの入れ替わりや
患者に対する思いの丈で歯科医院経営が左右されることになります。
仮にホスピタリティがそれぞれのスタッフ個人になくても
経営戦術的に、「患者と医療従事者との温度差」は、
埋める努力、スタッフへの指導、あなたの認識の更新を
徹底して行なうべきです。
「患者と医療従事者との温度差」にこそ、
患者はあなたの歯科医院に対する不満を募らせ
不信感を増大させていく原因があるからです。
特に「医療」という専門性の高い分野、業態では
提供者側と受容者側とで温度差が生じやすいことを認識し、
その温度差を広げない、さらには埋めていくように努めて、
その言動に「我々が」留意することが不可欠になります。
評価は別物
患者と医療提供者の「認識に対する温度差」が
あなたの歯科医院への不満に繋がるのです。
しかし、考えてみるとこの温度差は
本来の我々の役務である
”歯科医療の提供”には全く関係がないことから生じて、
最終的には好ましくない結果を招いています。
治療後の疼痛とか、機能回復の不具合とか、
審美的なカラーマッチング不足などとは別次元のことです。
このように「本来のサービスに対する不満ではない」ことが
あなたの歯科医院への不満の対象になることは実はとても多いのです。
つまり、極言してしまうなら、医療サービスの本質、すなわち
我々歯科医師の技術や、治療後の結果に対することよりも、
本質以外のことに不満を持つ患者が多いということです。
では、歯科医院に対して不満を抱いた患者のうちで、
本来の歯科医療サービスのクオリティ以外のことで
不満を持ってしまう患者の割合は
どれくらいと言われているでしょうか?
答えはなんと、98%です。
ほとんど全ての不満が、
本来の医療とは別のところで発生しているということです。
言い方を変えれば、
我々が考えている以上のことを
患者は要求しているということです。
医療の質が高いことはむしろ当たり前のことで
それ以上が求められる厳しい状況になったと
我々は認識するべきなのです。