なぜあなたの「褒め」は相手に届かないのか
「褒めて伸ばす」
これは現代の教育における常識であり、
ビジネスの現場でも当たり前のように語られています。
歯科医院経営においても例外ではありません。
スタッフのモチベーション管理、患者との信頼構築、
取引業者との関係維持、歯科医師会での人間関係。
円滑なコミュニケーションに「褒め」は不可欠です。
あなたも日々、意識的に褒めようとしているのではないでしょうか。
「いつも丁寧にやってくれてありがとう」
ところが、です。
せっかく褒めたのに、相手の反応が薄い。
照れ笑いでごまかされる。
「いえいえ、そんなことないです」と謙遜されて終わり。
褒めたはずなのに、何も響いていない。
この経験、あなたにも心当たりがあるのでは?
実は「褒める」という行為は、
天性の才能でもない限り、上手くいかないことの方が多いのです。
なぜ、あなたの褒め言葉は相手に届かないのか。
そして、どうすれば相手の心に刺さる褒め方ができるのか。
今回は、スタッフ定着率にも直結する
「褒め」の技術について解説します。
褒めが空振りする4つの理由
褒めているのに響かない。
その原因は、大きく4つに分類できます。
1. 相手が褒められ慣れていない
日本人の多くは、褒められることに慣れていません。
素直に「ありがとうございます」と受け取れず、
反射的に謙遜してしまいます。
「たまたまですよ」
こう返されると、褒めた側も拍子抜けします。
結果、次から褒めること自体を躊躇するようになります。
2. ”褒め”を消化するのに時間がかかる
突然褒められると、相手は戸惑います。
「なぜ今?」「何か裏があるのでは?」と
警戒心が先に立ってしまうこともあります。
特に普段あまり褒めない院長から急に褒められると、
スタッフは素直に喜べません。
褒め言葉を受け止め、消化するには
時間が必要なことも結構多いのです。
3. 褒めポイントがズレている
これが最も厄介な原因です。
たとえば、仕事に情熱を注いでいるスタッフに
「家庭を大事にしていて素晴らしいね」
と褒めても響きません。
逆に、家族との時間を最優先にしているスタッフに
「残業してくれて助かるよ」と言っても、
本人は嬉しくないどころか複雑な気持ちになります。
相手が大切にしている価値観と、
褒めポイントがズレていると、
褒め言葉は届きません。
4. 無難な褒め言葉に逃げている
何度か褒めに失敗すると、人は萎縮します。
そして、当たり障りのない言葉を選ぶようになります。
「今日も頑張ってるね」
「いつもありがとう」
悪くはありません。でも心には刺さりません。
誰にでも言える言葉は、
誰の心にも残らないのです。
この4つの原因に共通するのは、
「相手のことをよく知らないまま褒めている」
という点です。
では、どうすれば相手の心に届く褒め方ができるのでしょうか。
刺さる「褒めポイント」の見つけ方
相手の価値観を知らなければ、褒めは届きません。
では、どうやってそれを見抜くのか。
直接聞くわけにもいきません。
「あなたは何を褒められたら嬉しいですか?」
こんな質問をしたら、かえって不信感を与えます。
答えは、相手の言葉の中にあります。
相手が「誰かを褒めるポイント」に注目
人は、自分が大切にしている価値観で他者を評価します。
たとえば、あるスタッフがこう言ったとします。
「○○さんって、患者さんへの説明が本当に丁寧ですよね」
この発言から何がわかるでしょうか。それは、
このスタッフは「丁寧な説明」を重視している
ということがわかるのです。
つまり、このスタッフ自身も
「丁寧な説明ができる自分」を
認めてほしいと思っている可能性が高いのです。
他にも、別のスタッフが
「あの人は絶対に時間を守るから信頼できる」と言えば、
そのスタッフは「時間厳守」に価値を置いているとわかります。
他者を褒めるポイント=自分が褒められたいポイント
これは心理学でも裏付けられている傾向です。
人は自分の価値基準で世界を見ています。
だから、他者への評価には自分の価値観が投影されるのです。
「パクる」タイミングが重要
ここで注意点があります。
相手が誰かを褒めた直後に、
同じポイントでその相手を褒めてはいけません。
「○○さんの説明、丁寧だよね」と言った直後に
「あなたの説明も丁寧だね」と褒めてしまう…
これはあからさますぎます。
お世辞や追従に聞こえてしまい、逆効果です。
数日後、別の機会に使いましょう。
「そういえば、この前の患者さんへの説明、
すごく分かりやすかったよ。丁寧に伝えてくれてありがとう」
時間を置くことで、自然な褒め言葉になります。
そして、相手の価値観にピンポイントで刺さるのです。
歯科医院での実践ステップ
理屈はわかった。
では、具体的にどう実践すればいいのでしょうか。
3つのステップで解説します。
ステップ1:スタッフの発言を「聞く」
朝礼、ミーティング、休憩中の雑談。
スタッフ同士の会話に耳を傾けてください。
そして、
「誰かを褒めている瞬間」
を見逃さない、聞き逃さないことです。
「あの先輩、患者さんの名前すぐ覚えるのすごい」
こうした発言をメモしておきましょう。
スマホのメモ機能で十分です。
ステップ2:褒めポイントを「分類」する
集めた発言から、各スタッフの価値観を整理します。
・Bさん:患者との関係構築を重視
・Cさん:効率、スピードを重視
全員を同じ言葉で褒めてはいけません。
一人ひとり、響くポイントが違うのです。
ステップ3:タイミングを見て「伝える」
発言を聞いてから、数日〜1週間後。
該当する行動が見られたタイミングで褒めてください。
患者さんの待ち時間も短くできた。ありがとう」
ポイントは具体的な行動と結果をセットで伝えることです。
「頑張ってるね」より、何倍も心に届きます。
この3ステップを回し続けることで、
スタッフとの信頼関係は確実に深まっていきます。
今日から始める「聞く褒め」
ここまでの内容を整理しましょう。
褒めが届かない原因は4つ
・相手が褒められ慣れていない
・褒めを消化する時間が必要
・褒めポイントがズレている
・無難で漠然とした言葉に逃げている
そして、これらを解決する方法は、
相手が誰かを褒めているポイントを観察し、
そのポイントで数日後に褒める。
シンプルですが、効果は絶大です。
なぜなら、相手が大切にしている価値観に
ピンポイントで刺さるからです。
スタッフの定着に悩む院長は多いでしょう。
給与を上げても、休みを増やしても、辞めていく…
その原因の一つに、
「自分の価値を認めてもらえていない」
という不満があります。
日々の業務の中で、
「ちゃんと見てくれている」「わかってくれている」
そう感じられる瞬間があるかどうか。
これが、スタッフの心を歯科医院につなぎとめるのです。
さっそく今日から始めてください。
・スタッフが誰かを褒める瞬間を聞き取る。
・それをメモしておく。
・そして数日後、そのポイントで褒める。
たった1回でいいのです。
その1回が、信頼構築のドミノ倒しの1枚目になります。

