歯科医院経営における「孤軍奮闘」の限界
先日、ある30代の院長先生から
こんな言葉を聞きました。
レセプト点検をして、診療して、
患者対応して、スタッフの指導もして…
気づけば夜10時。家に帰っても
経営の心配で眠れない日々です」
この言葉を聞いて、あなたはどう感じますか?
「自分のことだ」と思った先生!
実はこれ、多くの歯科医院で
起きている現象なのです。
収益が伸び悩む医院には共通点があります。
それは「院長が全てを抱え込んでいる」点です。
臨床技術は一流でも、
院長一人が全ての業務に目を光らせようとする…
その結果、何が起きるでしょうか?
院長は疲弊し、スタッフは主体性を失い、
最終的に患者サービスの質が低下します。
先日訪問した医院では、
技術力の高い院長先生が
朝から晩まで奮闘されていました。
しかし、その姿を見てスタッフたちは
「自分から動く」ことを止めてしまっていたのです。
「どうせ院長先生が全部チェックするから…」
その思考が医院全体の成長を妨げていました。
歯科医院経営で成功している院長のほとんどは、
「管理する」から「任せる」へと転換しています。
あなたの歯科医院は今、どちらに近いですか?
この記事では、「スタッフを信頼し任せる」
という経営スタイルへの転換が
なぜ重要なのかを掘り下げます。
そして、患者も、スタッフも、院長も、
誰もみんなが幸せになれる「三方良し」の
歯科医院経営の実現方法をお伝えします。
「管理型」から「委任型」への進化
多くの歯科医院では「管理型」の
経営スタイルが当たり前になっています。
これはどういう状態かというと…
・院長がスタッフの行動を細かく指示・監督する
・ミスを恐れるあまり、全ての判断が院長に集中
・「院長の考え方」が唯一の正解とされる
このような歯科医院に
あなたは心当たりはありませんか?
ある院長先生は毎晩、全てのアポをチェックし、
翌日の準備に2時間も費やしていました。
そして、ご本人は「これでは経営者としての
本来の仕事ができない」と悩んでいたのです。
実は「管理型」経営には3つの大きな問題があります。
問題1:院長の時間的制約
あなたの時間は無限ではありません。
全てを管理しようとすれば、
診療の質や自分の人生を犠牲にするしかなくなります。
問題2:スタッフの成長停止
常に指示を待つスタッフは自ら考える力を失います。
ある歯科医院では、院長不在時には
簡単な予約変更すら対応できない状況でした。
問題3:医院の成長限界
全てが院長に依存する経営では、
医院の成長に天井ができてしまいます。
対照的に、成功している歯科医院では
「委任型」の経営が実践されています。
委任型経営とは、スタッフを信頼し
適切な業務を任せることで、
組織全体の力を高める手法です。
例えば、受付業務を完全に任された
スタッフは責任感を持ち、
独自の改善策を提案するようになります。
あるインプラント専門医院では、
衛生士にメンテナンス部門を一任したところ、
リコール率が30%から58%に向上しました。
「でも任せるのが怖い」
と感じる院長先生は多いですよね。
その心理には3つの要因があります。
1つ目は「完璧主義」
医師として培った高い基準を
全てに求めがちです。
2つ目は「失敗への恐れ」
患者の信頼を失うミスを
恐れる気持ちは当然です。
3つ目は「教える手間」
最初から自分でやった方が
早いと考えてしまいます。
しかし、この「任せられない症候群」が
あなたの歯科医院の成長を
妨げている可能性は高いのです。
実は「任せる」ことは
「放置」とはまったく違います。
適切な委任は、明確な基準と
確認の仕組みがあってこそ機能するのです。
次の章では、具体的にどのように
スタッフに業務を委任していくか、
そのステップを解説します。
委任の3ステップ
では、具体的にどうやって
「任せる経営」に転換すれば良いのでしょうか?
私が携わってきた成功事例から導き出した
3つのステップをご紹介します。
ステップ1:委任できる業務の特定
まず最初に、あなたが行っている
業務を全てリストアップします。
そして、各業務を次の3つに
分類してみてください。
できない業務(診断、治療計画など)
B:経営者としてあなたが
決定すべき業務(採用、設備投資など)
C:それ以外の業務
このC群が、委任の対象となります。
例えば、ある歯科医院では
院長がやっていた「在庫管理」を分析したところ、
毎週4時間も費やしていたことがわかりました。
これをスタッフに委任したことで
その時間を自費診療の勉強に
充てられるようになったのです。
ステップ2:適切な人材への委任と権限移譲
次に、委任する業務に最適なスタッフを選びます。
ポイントは「完璧な人」を探すのではなく、
その業務に関心と適性がある人を選ぶことです。
委任する際は以下の4点を明確に伝えましょう。
・期待される成果(具体的な数値目標)
・与える権限の範囲(何をどこまで決められるか)
・報告のタイミングと方法
あるインプラント専門医院では
予約管理を受付リーダーに委任する際、
「患者の待ち時間を15分以内に抑える」
という明確な目標を設定しました。
そして、チェアの稼働率を
調整する権限も与えたところ、自主的に
予約システムを改善して目標を達成しました。
ステップ3:フォローアップと評価
最後に重要なのが、委任後のフォローアップです。
「任せっぱなし」は失敗の元。
定期的なチェックポイントを設けて
進捗を確認しましょう。
特に初めのうちは週1回10分程度の
報告時間を設けることをおすすめします。
ポイントは「細かい手法」には口出しせず、
「目標の達成度合い」だけを評価することです。
ある予防歯科に力を入れる医院では
DHに「リコール率の向上」を委任した際、
具体的な方法には一切口出ししませんでした。
その結果、スタッフは創意工夫し
独自のリコールシステムを開発。
来院率が大幅に向上したのです。
委任が軌道に乗ったら、
次第に報告の頻度を減らし、
さらなる権限を与えていきましょう。
この3ステップを実践することで
あなたの歯科医院も
「委任型経営」へと進化します。
三方良しの医院経営を実現する
ここまで「管理型」から「委任型」への
転換について解説してきました。
この変化が実現すると、歯科医院には
素晴らしい好循環が生まれます。
それは「三方良し」の経営です。
まず患者にとっての良さ。
スタッフが主体的に動くことで、
細やかなサービスが実現します。
「ただ治療するだけ」ではなく、
「心から患者に向き合える」
歯科医院になるのです。
次にスタッフにとっての良さ。
任されることでやりがいを感じ、
成長していきます。
「言われた通りにやる」から
「自分で考えて行動する」へと進化するのです。
そして院長にとっての良さ。
本来集中すべき診療や経営判断に
時間を使えるようになります。
「忙しさに追われる毎日」から
「充実感のある診療ライフ」へと変わるのです。
明日から始められることは何か?
それは小さな委任から始めることです。
例えば、次のような簡単なものから
スタートしてみてはいかがでしょうか。
・特定の患者グループのリコール管理
・SNSの投稿内容の企画
大切なのは「完璧を求めず」スタッフの成長を
温かく見守る姿勢です。
「誰かが犠牲になる」歯科医院経営では長続きしません。
患者もスタッフも院長も、みんなが幸せを感じられる
歯科医院こそが持続可能な組織なのです。
あなたの歯科医院を
「三方良し」の理想形に近づけていきましょう。
その第一歩は、今日あなたが
「何を任せるか」を決めることから始まります。