先生は、何か熱中できる趣味をお持ちですか?
私の場合は音楽です。それも1960年代から
80年代にかけてのソウル、ファンク、ディスコといった
特定のジャンルの音楽に心を奪われています。
レコード店で掘り出し物のアルバムを見つけた時のあの高揚感。
針を落とした瞬間から体が自然と動き出す、あのグルーヴ感。
こうした魅力を語ろうとすると、
同じジャンルを愛する人には一瞬で伝わるのに、
そうでない人には全く響かないという
不思議な現象が起こります。
「あのホーンセクションの入り方が絶妙でさ」
そんな風に熱く語っても、興味のない人からは
「へぇ、そうなんだ」という生返事が
返ってくるだけなのです。
しかし、同じ音楽を愛する人と出会うと
不思議なことが起きます。
「あのアーティストの初期作品は
今でも色あせないよね」
そう切り出すと、相手の目が輝き始め、
「ええ!あなたも好きなの?」と
一気に距離が縮まるのです。
「最近のあのクラブ知ってる?」
質問が飛び交い、会話は尽きることなく続いていきます。
そして、その人は必ず同じ趣味を持つ別の友人に、
私のことを紹介してくれるのです。
こうして共感の輪が広がっていく。
これこそが「響く相手」を見つけたときに
起こる自然な現象なのです。
これは音楽の話ですが、
実はあなたの歯科医院経営にも
直結する重要な原理が隠れています。
あなたは診療室で患者さんと接する時、
全ての患者に同じように伝わることを
期待していませんか?
「予防が大切です」
そう真摯に伝えても、価値観の合わない患者には
ただの「歯医者の常套句」としか
受け取られないことがあるのです。
一方で、あなたの医療哲学や診療スタイルに
共感する患者は、あなたの言葉に深く頷き、
信頼関係が築かれていきます。
そしてその患者は、家族や友人に
あなたの歯科医院のことを
熱心に紹介してくれるようになります。
この現象こそ、本物のブランディングの
核心部分なのです。
歯科医院ブランディングの真髄
〜患者層の絞り込みが成功への鍵〜
先ほどの音楽の話、実は歯科医院の
ブランディングと本質的に同じなのです。
「どんな患者の脳内にブランドを築くのか?」
これが、あなたの歯科医院が生き残り
繁栄するための最重要課題になります。
多くの院長先生は「地域のすべての患者に
愛される歯科医院になりたい」と願っています。
しかし現実には、これは叶わない夢なのです。
なぜでしょうか?
それは患者一人ひとりの価値観がまったく異なるからです。
ある患者は「痛くなければそれでいい」と考え、
別の患者は「見た目の美しさ」を重視し、
また別の患者は「最先端の治療技術」を求めているのです。
このように価値観の異なる患者全員を
同じ空間で、同じアプローチで
満足させることは不可能です。
私がコンサルティングしてきた歯科医院の中で、
急成長を遂げた医院には共通点があります。
それは「誰の脳内に響かせるか」を明確にした
ブランディングを行っていることです。
例えば、ある歯科医院は
「働く女性の美しさと健康をサポートする」
というコンセプトを掲げました。
診療時間は平日夜8時まで、土日も診療。
インテリアはカフェのような落ち着いた空間。
メイク直しスペースも完備。
この歯科医院は、地域の全ての患者を
ターゲットにはしていません。
しかし、働く女性たちの間で
「あそこに行くべき」という評判が口コミで広がり、
紹介患者が絶えなくなったのです。
ブランドとは「特定の患者の脳内に築かれるイメージ」です。
あなたの歯科医院は今、どんな患者の脳内に、
どんなイメージを築こうとしていますか?
「どんな患者でも受け入れる」という考え方は、実は
「誰の脳内にもブランドを築けない」ことと同義なのです。
多くの人に響かせようと発信すると誰にも響かない。
この言葉は、マーケティングの世界では
揺るぎない真理として認識されています。
あなたの歯科医院のブランドイメージ、
これを患者の脳内に滑り込ませようと目論むなら
あなたは患者層を絞り込む必要があります。
さらに、患者層を絞り込む必ことで、
メッセージは明確になり、
診療内容もその層に最適化することができます。
結果、患者の満足度は高まり、
紹介の連鎖が自然と生まれていくのです。
価値観の一致が生み出す紹介の連鎖
患者層を絞り込むと、もう一つの
重要な現象が起きます。
それは
「価値観の一致した患者による紹介の連鎖」です。
先生のブランドの世界観に満足した患者は、
家族や友人に熱心に、あなたの歯科医院を
紹介してくれます。
しかも単に「良い歯医者さん」とだけでなく、
「他の歯科医院とどう違うのか」
を、具体的に語ってくれるのです。
これは冒頭の音楽の話と同じです。
共感した人は、同じ価値観を持つ別の人に
その共感を伝えたくなるのです。
では、どうすれば患者層を
適切に絞り込めるのでしょうか?
まず、あなた自身が最も情熱を持って
取り組める患者層はどこか、考えてみてください。
小児歯科に喜びを感じますか?
審美歯科に情熱がありますか?
それとも、
高齢者の口腔機能回復にやりがいを感じますか?
次に、あなたの歯科医院がある地域で、
どんな患者層のニーズが満たされていないかを
調査してみましょう。
そして最後に、あなたの強みと
地域のニーズが重なる部分に
ブランドポジションを設定するのです。
例えば「仕事で忙しいビジネスパーソンの
口腔健康を守るパートナー」や
「子どもの将来の歯を守る予防特化型歯科医院」
などの明確なポジションです。
このポジションが決まれば、内装、スタッフ教育、
コミュニケーション方法、診療時間など、
すべてをこの軸に合わせて最適化できます。
そうすると、あなたの歯科医院に来る患者は
少しずつ変わり始め、あなたの価値観に
共感する患者が増えていくのです。
明日から始める患者層の絞り込み戦略
さあ、患者層を絞り込む第一歩を
明日から踏み出しましょう。
まず、紙に向かい「理想の患者像」を
具体的に書き出してみてください。
年齢、職業、家族構成、価値観まで思いつく限り…
次に、現在の患者の中から
その「理想の患者像」に近い実在の3人を選び、
彼らがあなたの歯科医院の”何に満足しているのか”を
直接聞いてみましょう。
そして最後に、その患者たちに
「同じような価値観を持つ友人や家族に
紹介してもらえませんか?」と
遠慮なく尋ねてみてください。
この小さな一歩が、あなたの歯科医院の
ブランドを築き始める第一歩となります。
誰にでも響くことを目指すのではなく、
特定の患者の心に深く響くことを目指す。
これこそがブランディングの真髄なのです。